くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ペーパーバード 幸せは翼にのって」

ペーパーバード

ピカソの「ゲルニカ」で有名なスペイン内戦、フランコ独裁政権下のスペインを舞台に独りの喜劇役者ホカエと彼の基に身を寄せた少年ミゲルの物語を通じて描く暖かい人間ドラマである。作品としては平凡なもので特に目を引くところもない映画ですが、ストレートに訴えかける物語はラストシーンで美しい涙を私たちにもたらしてくれます。

妻と一人の息子を抱える喜劇役者ホルヘはその日も舞台に出かけていった。ところが帰り道で内戦の爆撃に遭遇、何とか家にたどり着いたが自宅は炎に包まれ妻と息子を一瞬にして失ってしまう。

それから一年、再び舞台に戻ってきたホルヘは一座に迷い込んできた一人の少年ミゲルと出会う。彼は両親を亡くし芸人になりたいと毎日一座のところへやってきてはつたない芸を見せていた。最初は反対していたホルヘも相棒のエンリケに熱心さにほだされ、ミゲルも含め三人で芸をするようになる。

ところが、フランコ独裁政権の圧力はしだいに強まり、家族を殺されたホルヘは常に政府から監察にくる軍人に反抗心を露わにしていた。

とはいえ、日々、なんとか目を付けられることもなく村々を回っていた一座にある日総統の目の前で芸を演じてほしいという依頼がくる。絶好の機会とかつてから総統を亡き者にせんともくろむ一座の一員も色めきたち始める。そして、当日がやってくる。

しかし、病院に入院しているミゲルの母に会い、自分のなくした息子の代わりにミゲルをしっかりと育てると約束したホルヘは不穏な空気を察して相棒を伴い間一髪で会場を逃げ出す。

かつての知人を頼ってアメリカのブエノスアイレスまでの旅券などを整え、いざ汽車に乗ろうとしたところで、以前からホルヘを好ましく思っていなかった政府の軍人の中尉に見つかり、エンリケやミゲルたちは汽車に乗ったものの、寸前でホルヘは撃ち殺されてしまう。

それから何十年か経った。ここブエノスアイレスではすでに老人となったミゲルが彼のファンの前で講演をしようとしていた。ミゲルが懐かしい歌声を披露し出すと、客席にはかつての一座の面々が当時の姿のままでミゲルにほほえんでいた。

まだ子供だったころのミゲルがホルヘたちと馬車に乗ってのどかな田園の彼方へ去っていって映画は終わります。

取り立てるほどのショットも、驚くほどの見事なプロットの組立もありませんが、淡々と進んでいたストーリーが総統暗殺の劇場で、実はホルヘたちを監視していた大尉たちが実は総統暗殺の黒幕であることが一気に露呈していくサスペンスフルなクライマックスは見応えがあり、その後の逃げるショットからラストシーンまでのスリリングな短い場面がそれまでの展開と打って変わったスピード感で非既婚でくれます。このリズム転換だけでも見応えがあったかもしれません。

素直にいい映画でした。