くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「親愛なるきみへ」「終わりなき叫び」

親愛なるきみへ

「親愛なるきみへ」
ニコラス・スパークスの純愛ラブストーリーをラッセ・ハルストレムが映画化した文字通りのピュアな恋愛物語である。しかも、9・11事件がとうとうこうしたラブストーリーの中のネタにはいるようになってきたというのはアメリカがあの事件から立ち直った証拠なのだろうか。

映画が始まって、一人の兵士が撃たれて倒れる。彼こそ主人公のジョンである。彼は意識を失う寸前に少年の頃造幣局の見学で見てたくさんのコインを回想する。そして浜辺、美しい景色を背景にタイトルが始まる。ラッセ・ハルストロムならではの美しいショットで幕を開けるこの映画、まるで照れくさくなるようなストーリー展開でどんどん物語が進行していく。

退役を一年後に控え最後の休暇で浜辺にすむ父の家にきている主人公のジョン、浜辺でぼんやりしていると若者四人が前を通る。ところがふとしたはずみにその若者たちの一人サヴァナのバッグが海の中に。思わず飛び込んで拾い上げたジョンとサヴァナは急速に接近。わずか二週間で二人は熱愛の仲になる。この導入部が実に美しいが、これこそニコラス・スパークスといえるのはこれからである。

赴任地を転々としながらジョンとサヴァナは何十通も手紙を交換する。この下りが延々と語られ、一方で、出発直前にサヴァナに説明されたジョンの父が自閉症であるという下りもじわじわとストーリーに絡み合ってくる。

そして、退役間近になって9・11事件が勃発。兵役にきている誰もが赴任延長を願い出て、ジョンもしぶしぶ延長を申し得ることに。そして二年、サヴァナとの手紙はある時を境に途切れ、二ヶ月の後に届いたときには彼女が婚約したという告白。絶望の中さらに赴任期限を延長し自暴自棄に。

そんなある日彼は撃たれて被弾してしまう。これが冒頭のショットである。そして復帰後いくつかを回った後アメリカに戻った彼を待っていたのは父の死。サヴァナはだれと結婚したのかという展開がストーリーをクライマックスへつないでいく。

父の葬儀を終え、サヴァナにあったジョンはサヴァナの結婚相手がティムという自閉症の子供アランを抱えて父子二人暮らしだった知り合いだと知る。しかもティムはガンで余命幾ばくもなく、高価な薬で余命をつないでいたがそれもつきたとのこと。

サヴァナに別れを告げたジョンは父の残したコインのコレクションを処分し、それをサヴァナに無記名で送る。
そして、赴任期限が終わり帰国したジョンはサヴァナと再会、二人は抱き合ってエンディングである。

おきまりのストーリー展開であるものの、最後までいつの間にか引き込まれてしまう手腕はラッセ・ハルストレムの演出力か、それとも体調がよかったのか、今更ながらの展開と特に際だたない映像はそれはそれでいいのかもしれないが、どこかピリっとしたスパイスが足りないような気もします。

淡々と語るストーリーはニコラス・スパークのラブストーリーの特徴ですが、ラストにちょっとハッとするようなショットがあってエンディングになる。それがティムとサヴァナの結婚ということなのでしょうが、ちょっと前後の演出に弱さがあるために、当然のようにしか見えないのが残念。もう一歩踏み込んだ思い切りがほしかった気のする作品でした。

「終わりなき叫び」
チャドにすむアダンとアブデルの父子がプールで戯れているシーンから映画が始まります。二人はこのホテルのプールの監視員で、サイドカーのついたバイクでいつも二人で仕事に向かっていました。

しかし、ある日、ホテルの支配人から監視員は一人でいいと通告され、仕事にしがみついた息子が残り、父のアダンは門番に配置換えされてしまいます。実はこのアダン、かつては水泳選手でアフリカ大会に優勝したこともあり、知る人は彼をチャンプと呼んでいるのです。

こうして物語の幕を開けたこの作品、父と子の心の葛藤が丁寧なカメラワークでじっくりと描かれていきます。チャドの国内は内戦で荒れていて、ラジオから流れてくるニュースでは反乱軍と国軍との戦闘の模様が流れ、時折上空をジェット機らしい轟音がすぎていきます。

生き甲斐であった監視員の仕事を追われたアダンはある日、友人で地元の地区委員をするアーマッドに息子を徴兵に召集させたらどうかと持ちかけられる。アブデルがいなくなれば自分は監視員に復帰できると考えたアダンはその申し出を承諾。数日後に息子は無理矢理召集されていきます。当然、アダンはプールの監視員に戻る。しかし、複雑な心境が隠せないアダンは日々悩みます。

門番となったアダンが決断をするときの思い悩むシーンをじっと彼を静止でとらえるカメラが実に効果的に彼の心情を映し出します。

そんなある日、アブデルの恋人ジェイウッドが訪ねてくる。妊娠しているという彼女を家に入れて一緒に生活を始めます。そこへ届く息子からのテープに吹き込まれた恋人への手紙。悩んだ末にアダンはジェイウッドに自分が息子を徴兵に召集させたことを告白、そして、一人バイクに乗って息子を救出に向かいます。

一方で内戦が続き非常に危険な状況にも関わらず、アダンが走る道筋は非常にのどかで広大な大地が広がっている。この対照的なショットが実に印象的です。

前線まで到着したアダンがそこで見たアブデルはすでに瀕死の重傷。何とか連れ出し、サイドカーに乗せて帰路を急ぎますが、ある木陰で息子がすべてのことを聞いたとはなされます。言葉のない父に息子がゆっくりと手をさしのべ、父の気持ちを察したことを示すこのシーンはジワリと胸が熱くなる。

そして、死を間近にした息子は川で泳ぎたいと懇願、アダンは何とか川辺にたどりつきますがすでに息子は事切れています。ゆっくりと川に息子の死骸を流し、川の中を歩いていくアダンの姿で映画が終わります。

チャドという国の情勢は詳しくありませんが、内戦のようすなど政治的な背景を知らなくても、にじみ出てくるように伝わるこの親子の人間ドラマは直接胸に染み渡る迫力があり、時折挿入される兵士のショットや逃げる市民のシーンなどで緊迫した状況も伝わってくるという実に巧妙なストーリー構成に感動する一本でした。地味な作品ですが、こういう映画も見ておくべき作品の一つでしょうね。