くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「監督失格」

監督失格

本来、ドキュメント映画というのは見ない主義なのですが、この作品は、マイナー作品であるにも関わらずTOHOのシネコンにかかるという異例の公開方法であり、庵野秀明がプロデュースしたという話題作でもあるので見に行きました。

物語、というか撮られている被写体はAV監督平野勝之とAV女優林由美香の物語である。
売れっ子AV女優であった林由美香を新人AV監督平野勝之が映像として撮り始め他の画1996年、やがて二人は恋人同士になるも長くは続かず、しかし、別れた後も友達としての交際を続ける。

ある日、平野勝之が北海道へ一人映画撮影に自転車で出かけるという企画を持ち出し、一人で行くところを由美香もついていくことになる。映画のほとんどの部分はその自転車旅行の様子をとらえているが、肝心の時にカメラを回せない平野の姿に由美香が「監督失格だよ」とつぶやくのがこの映画の題名となる。

そして、その自転車旅行の様子の合間合間に挿入される由美香のこれまでの人生やラーメンチェーンの女社長でもある由美香の母親の姿なども挿入し、丁寧で真剣な映像編集でしっかりと人間をとらえていくカメラは本当に好感である。

やがて、苦難の旅行から帰り、それから何度かの自転車映画を撮り続ける平野の姿をとらえて、ある日、数年ぶりに由美香を映画に撮ろうと連絡を取る。もちろん、その間も友人としての関係を続けていた二人だが、作品への模索を続ける平野の苦悩も語られていくのである。

そして2005年、由美香の35歳の誕生日に彼女の部屋での撮影をきめて出かけたその日、何度呼び鈴を押しても返事のない由美香に、翌日その母親とともに部屋にはいると由美香は死んでいた。

酒と睡眠薬による事故ということだったらしいが、たまたま持ち込んでいたカメラが廊下に置きっぱなしで、泣き叫ぶ母親の姿、平野の困惑する様子などがそのままの映像として映し出され、身につまされるほどの悲しさがこちらまで伝わってくるのです。
あまりにも赤裸々なままのこのフィルム母親と取り決めもあり封印されます。一方の平野勝之自身もこの事件の後映画を撮ることができなくなってしまう。そして2010年、母親がその封印を解除し、今回の公開へとつながった。

最後の最後、腰痛で身動きもままならない平野勝之が必死の思いで自転車を走らせ、なき叫びながら夜の町を疾走する。「本当に由美香とお別れしなければ・・・」。がむしゃらに走る彼の姿には何度編集しても今回の作品のラストが、幸せそうだった由美香の目を閉じるショットしか浮かばないというやるせなさがたまらなく涙をそそります。

ドキュメントなので、直接心に訴えてくるのはもちろんなのですが、非常に編集が見事で映像作品としてもレベルの高いできばえであることも確かであり、そのあたりが評価されて一般公開になったのでしょう。