「荒野の七人」
今更いうまでもなく黒澤明監督の名作「七人の侍」の西部劇版リメイク作品である。しかし、徹底的に娯楽映画としてまとめあげ、さらにエルマー・バーンスタインのテーマ曲が大ヒットしたために、別の意味での映画史に残る名作となりました。
今回スクリーンで見直したのは20年ぶりくらいですが、改めて見直すと、「七人の侍」との違いがあちこちにかいま見えてきます。
前半部分はそのストーリーのディテールに至るまでほとんどがオリジナル版の展開を踏襲しています。村へ向かう途中でのチコが魚を捕って食事をするショットまで全く同じ。もちろん、村人が町へやってきてガンマンを集める下りはかなりはしょっていますが、それはそれでコンパクトにまとまっていますからいいと思います。
さらに七人のキャラクターの性格をシャッフルして組み直し、ローバート・ボーン演じるガンマンの存在を生み出している。
そして、当然後半部分は最初のカルヴェラの襲撃まではオリジナル版に似通ってますが、その後はかなり大幅に改変。いったん、村人の裏切りで追い出された七人が逆に村に入り込んだカルヴェラを襲撃するというクライマックスに置き換え、そのシーンが最後の銃撃戦となるように作りなおしている。
「七人の侍」の映画としての完成度の高さをこの「荒野の七人」と比べるのは全く意味がないと思うので、ここではふれるべきではないと思いますが、こうしてリメイク作品を見るといかに「七人の侍」がその研ぎすまされたストーリー構成の見事さと、カメラアングル、カメラワーク、人物描写すべてにおいて群を抜いていることを改めて実感しますね。
「七人の侍」が3時間を雄に越える超大作であるのに対し2時間あまりになっているのですから当然娯楽エッセンスをさらに凝縮させている。その意味で、最初から最後まで少年心をわくわくさせるほどに楽しめるエンターテインメントに仕上がっていて、間延びする場面が全くない。全編娯楽の固まりとしてわくわくさせられてエンディングを迎える。これこそジョン・スタージェス版「七人の侍」の真骨頂ですね。本当に楽しかった。
「ツレがうつになりまして」
なんだろう、この映画から伝わってくる不思議なリズム感。ほのぼのとしたアットホームなラブストーリー。映画を見ているはずなのにいつの間にかこのハルさんとツレの穏やかな毎日に溶け込んでしまう自分を感じてしまう。そんな癒される映画がこの作品でした。
監督は佐々部清さん。生活の中の人間ドラマを描かせると本当にうまいなぁといつも思いますが、その得意分野で演出されたいい映画だった気がします。
物語は、いまさらいうまでもなく漫画家・細川貂々のコミックエッセイを原作にしたドラマである。
売れない漫画家ハルさんの愛する夫ツレがある日毎朝の朝食を作れなくなりうつになってしまいます。そして巻き起こるハルさんとツレのほほえましいほどの闘病ドラマなのですが、ツレを演じる堺雅人、ハルさんを演じる宮崎あおいそれぞれ本当にいい味を出していて、妙にシリアスなコメディにならない。軽いタッチでまるでハルの鶯が遠くに聞こえるような絶妙の軽いリズム感で演じていくのです。佐々部清監督の演出もそんな彼らをゆったりと捉えるべく、ペットにしているイグアナのイグをさりげないムード作りに使って作品全体をまとめ上げていく。
一見厳しいようなツレの会社の上司もくどくどと描写せずに実に軽くいなしてしまうし、ハルさんの持ち込む編集者も当たり前のどこにでもいるサラリーマンのごとく描いていくので、物語が本当に自然なリズムで流れていくのです。そのさりげなさがいつの間にか見ている私たちをハルさんとツレの日常に引き込んでいくのでしょうね。
映画が始まって、イグアナがちょっと古風な下町の家の縁側からゆっくりと中を這い回る姿をカメラが追いかけ、やがてツレとハルさんがカメラの中に入ってくる導入部がとっても自然で映画らしいのです。
うつ病になったツレを必死で明るくいたわるハルさんが宮崎あおいさんの見事な間合いの取れたせりふの連続で生き生きと物語を引っ張っていく。そしてそんな宮崎あおいさんの絶妙な演技にとぼけたツレが必死でついていく姿をこれまた堺雅人が好演。そして、周辺の人物たちも当たり前のようにかかわっては消えていく。このテンポが本当に自然なのに、どこかフィクション、どこかコミカル、どこかファンタジーでさえある。だから楽しいんですね。
最後に、ハルさんが書いていた日記の中のイラストが空に飛び出していき、ハルさんもツレもそのアニメーションを見上げるラストシーンが実に爽快で、このままこの二人の世界に溶け込んだままでも良いんじゃないかとさえ思えてしまう。そんな、さりげなく楽しくて、それでいて考えさせられるいい映画だった気がします。たまには肩のこらないこんな映画を見てもいいかなと思える一本でした