「たまたま」
蒼井優が水に落ちて宛先がにじんで行き先のわからなくなった一通の手紙になって名も知らない町をさまよい歩くファンタジーである。
たまたまというのは、つまり偶然という意味のたまたまである。
水ににじんだインクの模様をバックにタイトルが始まり、椅子に座った蒼井優がかつての撮影の時のエピソードを語るというような画面から映画が始まる。
そして、ボートに漂う蒼井優が水に落ちたようなシーンから物語が語られていく。太陽や水、鳥、木々、林など地球の自然の風景がデジタル映像でとらえられ、増幅された効果音がドキッとする迫力で聞こえてくる。
舞台はアイルランドでしょうか。戸口から戸口へさまよう蒼井優。うちも違う、うちも違うと断られながらさまよう。少年に会い、老人に会い、魔法使いから希望の飴をもらったりする。切手を収集する会場へさまよい込んだり村祭りの中にとけ込んだり。希望を失った女性にあって、希望の飴を半分与えたりと幻想的なシーンが続く。
そして、ようやくたどり着いた本当の目的地。そこに住む老人が蒼井優の語る手紙の内容にじっと耳を澄ます。そして蒼井優は一通の手紙に戻り映画は終わる。たまたま水に落ちた手紙がたまたまいろんな人と出会い、そして目的をはたす。不思議な短編映画ですが、こういう作品に触れるのもまた楽しいものです。
自然のショットや、人の表情のカットなど、正直平凡な感性を感じてしまうのは私だけでしょうか。デジタルカメラを駆使したというわけでもなく、もっと思い切った演出にチャレンジした方が後々表現力が備わるように思えなくもありませんが、音と映像の組立のおもしろさはなかなかのものだった気がします。
「エンディングノート」
本来、ドキュメントは見ないのですが、評判になっているしそこそこにヒットしているので、見に行きました。
定年後、ようやく落ち着いた人生をと思った矢先末期ガンが見つかり、余命わずかとなった砂田知昭さんの最後のひとときを是枝裕和監督に助監督についていた三女砂田麻美が撮りためていた父のビデオと、最後のひとときの記録を編集して完成させた作品である。
葬式の場面に始まり、砂田麻美が父となって語る父の最後のプロジェクトがナレーションで流れる。そのイントネーションと丁寧な言葉が非常に好感な出だしである。明るい音楽がバックを彩り、テンポよく始まるファーストシーンに、「これはなかなかかも」と引き込まれていく。
死を目前にして、エンディングノートなるもので死後の段取りをつづっていく主人公の姿。後わずかという末期ガンにも関わらず、この元気な姿はどうしたものかと思うが、人それぞれガンによる生活の影響は違うので、この男性はある意味ラッキーであったのかもしれないと、その展開をほほえましく見てしまいます。
軽快に物語は進んでいきますが、さすがに最後の5日間のあたりになると肉親の感情がでてきたようでシーンが妙にくどくなる。作られた物語ならクライマックスというところなのでしょうが、こうして商業ベースで流すのであればここはプロの映像スタッフとして徹してほしかったと思う。
とはいえ、息を引き取ってからエンディングまでは本来の彼女の才能で締めくくってくれたから、これはこれでよかったと思います。
お孫さんの屈託のない微笑みや、仕草、さらに妻に対する最後の感謝の言葉など、涙ぐまずにはおれないシーンは当然挿入されているし、こういうのはある意味でずるいとおもえなくもないけれども、ドキュメンタリーなのだから仕方がない。
映像作品としての出来映えは先日の「監督失格」に比べるとやや落ちるけれども、家族の記録としてこういう形でドキュメンタリーとして完成させたことの監督である砂田麻美さんの気持ちはくんであげるべきだと思う。
冷たいようですが、個人的には商業作品としては、ちょっとかな?という感想です