くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「5デイズ」

5デイズ

レニー・ハーリン監督といえばアクション映画の演出でその手腕を発揮するが、今回のこの作品はきわめて政治色の強いかなりシリアスなドラマである。しかし、そんな社会ドラマにレニー・ハーリンの卓越したエンターテインメントの才能がコラボレートし、しっかりとそのテーマを訴えかかけてくるとともに、娯楽映画として最後まで観客を引きつける極上の秀作に仕上がりました。残念ながらミニシアターでしか上映されなかったのはもったいない限りとはいえ、さりげなく登場させる人物に物語構成に重要な役割を丁寧に与えた見事な脚本は必見の一本であったと思います。

バグダッド近郊、戦場ジャーナリストの車が中でふざけた雑談を死ながら走っているところから映画が始まります。時は北京オリンピック開催の前年2007年。

突然、銃声が響きこの車は一瞬で軍隊に囲まれ狙撃を受ける。次々と車の中の人々が撃たれ、主人公トマスの恋人ミリアムを殺されてしまう。しかし、これまでかと思われたときにグルジア軍を中心とする多国籍軍が到着、救われる。そのとき、瀕死のトマスにお守りを渡したグルジア軍のリーダーが物語の最後まで重要な役割を果たしていく。

そして、1年後、グルジア軍が侵攻してきたとロシア軍がグルジアに軍事介入。西側諸国と親しいグルジア大統領はアメリカを始め西側への救援を求める。一方、再び戦場ジャーナリストとして戻ったトマスはその現状を本国に伝えるが、時は北京オリンピック開会式と重なり、どのテレビ局も取り上げない。

やがて、ロシアは民兵や傭兵を募ってグルジアへ攻め込んでくる。空爆から何とか逃れたトマス等はそこで、ロシア軍による市民の大量殺戮を目撃、その記録したSDカードを守り、世界へ映像公開するために逃亡を開始する。この脱出劇の物語がストーリーの中心になりますが、グルジア軍が全面協力した戦闘シーンの迫力が実にリアルで、田舎の建物の中をくぐりながら抜ける主人公たちの状況が非常に緊迫し、その窮屈さがリアルに伝わってくる映像がドキュメンタリータッチの見事な映像演出で描かれていきます。

迫ってくる民兵たちの中に、殺戮に躊躇する若者が描かれ、一方で非情なまでに殺戮を繰り返す人物、さらに、彼らの隊長として存在する人物の不思議と紳士的なキャラクターなど、丁寧な人物描写も緻密な脚本のなせるところでしょうか。

最後の最後、トマスがグルジアで知り合った女性タディアを民兵の一人の非情な男に人質に取られ、SDカードと引き替えにスター林広場で対決するクライマックス。あわやトマスは殺されるかという瞬間に殺戮に躊躇していた若者によってこの民兵が殺されトマスが助かるクライマックスは、思わずうならせる見事な展開。人物描写が実に丁寧な脚本の真骨頂です。

そして、死んだと思っていたトマスの相棒セバスチャンも助かっており、そのハッピーエンドも心憎い観客への心配りでもあります。

エピローグはグルジア大統領が、ヨーロッパの首脳を迎えて高らかに独立を再度宣言する大演説で物語が幕を閉じる。
そして、民兵たちに殺されたグルジアの市民たちが次々と訴えかけ、欧米の要請にも関わらずいまだ撤退しないロシア軍のショットを映して映画は終わります。

物語の中にちりばめられた様々な登場人物が見事に性格づけられて描かれており、時にハイスピードな映像や、迫力ある爆破シーンも織り交ぜたレニー・ハーリンらしい音国際演出とドキュメントタッチのカメラワークがシリアスな物語に見事なリアリティを生み出してくる。その見事なマッチングの完成度は中途半端な娯楽映画よりも数段すばらしい秀作であったと思います。見逃さなくてよかった一本でした。