くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「禁じられた遊び」「スリ」

禁じられた遊び

禁じられた遊び
何十年ぶりかでスクリーンでみなおしたけれど、やはり今回も、ルネ・クレマンの卓越した演出力に改めて背筋が寒くなった。
もちろん、物語は悲しいし、主演のポレットを演じたブリジット・フォッセーは本当に愛くるしいしかわいい。しかし、それにもまして、この作品はその画面の組立と脚本の完成度の高さが群を抜いているのである。

ドイツ軍の空襲の中、パリから逃げるポレットの家族。車が故障し脇へ押しやられ両親とポレットの三人は徒歩で逃げるしかなくなる。近くでは次々と縦断や爆弾に人々が死んでいく。ポレットの家族は車を所有し、ポレットはペットの犬を飼っている。つまりかなり裕福な家庭なのである。

エイゼンシュテインの「戦艦ポチョムキン」を思わせるような見事な編集シーンが展開し、ポレットたちは迫ってくる爆撃機に身を潜める。ポレットの抱いている犬が逃げ出す。ポレットが追う、両親が追う。一気の爆撃機が迫る。三人は道ばたに伏せる。爆撃機の機銃が迫ってくる。一瞬で両親が死ぬ。起きあがるポレットには両親が死んだことより自分が抱いていた犬が死んでいる方に気持ちが移る。というのか、両親が死ぬということを受け入れられなくて拒否しているのか。

そして一人歩き始めるポレット、荷車に乗せられるが、そのおばさんが犬を川に捨てたため、それを追って一人川縁へ。人のいない馬車が走っている。それと重なるポレットの姿。この馬車がミシェルの家のそばへ流れていき、そこでミシェルとポレットが出会う。こうしてこの物語が始まる。背筋が寒くなるほどに完成された見事な導入部である。

ポレットは裕福な家庭の子供であるが、祈りの言葉さえ知らない。それはこれまで周辺に死というものに出会う機会も少なかったことが伺える。一方のミシェルはどちらかというと貧しい。だから、あこがれのようなかわいらしい少女が目の前に現れ舞い上がって、彼女のために必死になるのである。そして、死にたいしてかなり鈍感になっている。兄の死にもそれほど動揺しないところからもそのあたりが伺いしれるのである。

そして、ご存じのストーリーが展開。あまりにも切ないラストシーンへと語られていくのである。

今回、再見し、おもったのはこのミシェルの家と隣の家が仲が悪いということである。考えすぎかもしれないがここに戦争に対する痛烈な風刺が隠されているように思う。両家の間の子供たちの恋い。ミシェルとポレットが十字架を集める遊びに対する不気味な頬の怖さ。反戦映画の名作と称されるこの作品の奥の深い部分がこのあたりに見事に描写されているのではないか。

といっても、そこまで深読みするのはやめましょう。ラストシーン、雑踏の中にミシェルの声を聞き、一瞬「ママ」と叫ぶポレット、やがて「ミシェル、ミシェル」と叫びながら雑踏へ消えていくポレットの悲しいラストシーンこそ、この映画の名作たるゆえんなのですから。

それから、映画が始まってから流れるナルシソ・イエペスのギターの調べがそのままスクリーンの一つ一つのシーンを語っているかのような詩的な演出もこの作品のすばらしさを語っていることも最後に書いておきたいと思います。

「スリ」
ロベール・ブレッソン監督の代表作の一本。日常にその目的を見つけられなかった一人の青年ミシェルがスリに魅せられ、彼の姿を通じて描かれる人間ドラマである。映画の冒頭にテロップが流れるように、この作品は犯罪者を扱った刑事物ではない。

映画が幕を開け、テロップが終わると主人公ミシェルが競馬場でスリを働くシーンに始まる。まんまと金をすったものの、でたところで警察に捕まる。しかし、証拠不十分で釈放。どんな疑いで彼を捕まえたのかと疑問に思うが、そんなことはお構いなく物語は本編へ。

ミシェルが母のところへ立ち寄り金を届けようとした際、母の面倒を見る階下の女性ジャンヌに出会う。その後、地下鉄でスリの手口を目撃、自らもスリを繰り返すようになるが、そんな彼の才能を認めたのか一人のスリのプロが彼に様々なテクニックを教え、三人組で次々とスリを繰り返すようになる。手際の良いスリのシーンは実にスピーディである。しかし、この作品のポイントがこのスリの見事なテクニックを描くものではないことはその前後のミシェルの母や、その母を世話しているジャンヌ、さらにミシェルの友人ジャック、ミシェルと親しくなったかに見える刑事とのやりとりの中に見えている。

そして、終盤、ミシェルの相棒二人が警察に捕まり、ミシェルも一人で行った仕事で捕まって格子を挟んで女性と対峙、「君に会うためにどんなに回り道をしてきたか」と本当はジャンヌを愛していたことにミシェルが気がついて映画は終わる。
結局、日々の生活を模索し、自分の今の人生の目的がわからないままにその緊張感ゆえにスリを繰り返していくことになる一人の男の物語であったことがラストシーンで明らかになる。

全体のリズムが実に淡々としているようで、スリのシーンはサスペンスフルでスリリングかつシャープであるが、平坦に進む人間ドラマであり、正直、途中ちょっとしんどい感覚にとらわれてしまいました。

とはいっても、完成された作品であり、必見の一本であったと思います