くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ハートブレイカー」「密告・者」

ハートブレイカー

「ハートブレイカー」
久しぶりに最高にハッピーなラブストーリーに出会いました。ほんの一瞬も手を抜かない丁寧な脚本と、最後の最後まで気を抜かない繊細な演出、それに、登場人物のそれぞれがとってもハートフルで素敵、こんな映画いったい何年ぶりに出会っただろう。とってもすばらしい映画でした。

主人公はプロの別れさせ屋、姉メラニーとその夫でコンピューターオタクのマルクを相棒にして様々な依頼に基づいて徹底したリサーチと計画で見事に恋人たちを別れさせてしまいます。その手口の鮮やかなところが映画のほんの冒頭で見事に描かれる。砂漠近くのプールで寝そべる男、水着の美女にうっとりしている。そこへ水濡れコンテストのチラシ、そこへ恋人が砂漠へツアーに行こうとやってくる。どちらかというと水濡れコンテストのほうに興味がある男は恋人を一人砂漠へ。しかしツアーのバスはいってしまい、たまたま砂漠へ行くある教授のジープに乗る。意味深に鳥かごを持ったターバンの男が映される。

この教授らしい男、どうもうさんくさく、行く先々で相棒らしい女や男が彼をフォローしているようなショットが続く上に、妙にこの恋人の女と気が会うように見える。そう、彼こそがこの映画の主人公アレックスなのだ。そしてタイトル。

砂漠での一仕事が終わったアレックス、次の仕事は花の卸売り業者の元締めである大富豪から娘ジュリエットの結婚を阻止してほしいというもの。娘の相手は大金持ちの御曹司で二枚目でやさしいという何の申し分のない男。結婚は10日後という厳しい条件である。胡散臭いムードを感じたアレックスはいったん断るが、実はこのアレックス、5万ドルという借金があり、これを返さないとごろつきに殺されそうになる。そこで、5万ドルを条件に仕事を請け負うことに。

父親の依頼のボディガードだと称して、結婚式の準備にモナコにやってきたジュリエットに近づく。そして、仲間の必死のサポートで徐々に目的が近づいていくのであるが、どうにも今一歩で主人公は彼女をだましきれない様子が次第にかいま見えてくる。一方のジュリエットは全く動じることなく、恋人との式に向かって準備を整えていく。そこへやってくる幼なじみの男好きの親友ソフィ。この女性も最初は何者かとめんどくさく見えるがラストに進むにつれ肝心のところで実にいい役どころを発揮するのがいいです。

一見ありきたりのストーリーながら、ほんの些細なお膳立てやショットが本当に心憎いほどに丁寧に描写されていくのです。

そして、いよいよ結婚前夜。どうにもならなくなったアレックスたちですが、もはやこれまでと、あらゆるサポートを退けてアレックス一人で彼女を夜のデートにさそう。これも、見事なフェラーリのオープンカー。この小道具が実にいい。そして、ただだまして分かれさせるだけのつもりだったアレックスも次第に本気で彼女のことを思っていることに気づき始めている。彼女が好きだった映画のワンシーンを再現してダンスで踊る主人公たちのシーンも本当にロマンティック。

そしてやがて朝がくるが、帰り道の車は雨に遭う。ホテルの前で別れるシーンで雨が突然やむ、こんな演出見たことがにほどすばらしいのです。
そして式の当日、とうとう、うまくいかなかったアレックスたちは依頼主殻終了を告げられホテルを撤収。帰りのエレベーターでたまたまジュリエットと父親が乗る。と、運悪くマルクの鞄から今回の仕事で使った写真がこぼれおち、それを拾い集めたときにジュリエットに、すべてが明らかになってしまう。複雑な心境でジュリエットはアレックスを見つめるのであるが。

そして、アレックスたちは空港で搭乗手続きを行う。しかし、そこで姉メアリーはアレックスの本心を汲み取り、その背中を押すようなせりふを投げかけてアレックスをジュリエットのもとへ送り出す。このさりげない姉の弟への愛情がなんともいえなく胸に染み渡るのです。

一方式場、バージンロードを歩く父と娘ジュリエット、ここへくる途中、父はその車の中で「なぜ彼と一緒になるのだ?申し分のないだけの平凡な男だ、」とつぶやく。裕福で申し分のない平凡な結婚が本当に娘の幸せなのかを親身になって思う親心が実にこれも胸にしみて、娘への父親の暖かい愛情が実に心地よい。そしてバージンロードを歩きながらジュリエットに父がいう。「車にキーがついているよ」・・・・。

ジュリエットは父の言葉に背中を押された気持ちになり走り出し、アレックスの元へ。途中、車を降り、二人は道ばたで出会い抱き合う。
もう、拍手したくなるクライマックスなのです。

姉が弟思う温かい心、娘に嫌われているものの、本当に別れさせたい理由は本当の娘の幸福を考えてのことだとわかるラストの父の姿。もう、自然と熱い感動がわき起こってきました。こんなハッピーなラストシーン、いったい何年ぶりだろう。

もちろん、その後のエンドタイトルにもサービスシーンが満載で。その後のアレックスの姉夫婦やら、実はアレックスの借金の返済先はまわりまわってジュリエットの父親だったことやら、ジュリエットに振られて落ち込むフィアンセに言い寄るソフィの姿などの種明かしまで満載。もう拍手喝采の大感動の一本でした。

もっと、書きたいところはいっぱいあるのですが、とても書ききれないです。それくらい、見事なラブストーリーだった気がします。

「密告・者」
香港映画らしい徹底した娯楽指向で描かれたバイオレンスノワールであるが、しんみりとさせる切ない愛のドラマも丁寧に挿入された娯楽映画の秀作でした。

アクションシーンのみならず、男と女の何ともいえないラブストーリーを盛り込んだ脚本が奥の深いドラマを作り上げ、タンデ・ラム監督の映像美学が美しすぎるほどの様式美が徹底されたバイオレンスシーンを生み出しています。
決してなにもかもが完成された作品とはいえないのですが、そこが香港映画のいいところで、妙に映画賞を意識せず、まず観客を楽しませることに徹した映画作りがこの作品でもひしひしと伝わってきます。本当におもしろかった。

映画が始まると次々と目を隠した犯罪者の顔写真が画面いっぱいに広がっていく。そして、スタッフキャストのクレジットが流れて画面が変わるとワゴン車が狭い路地を入っていく。路地の奥では麻薬の取引中らしく、そこへ送り込んだ密告者の手はずで警察がやってきたのだ。ところが、スパイがいることがばれて取引が中止に、その情報で一気に警察が突入、銃撃戦の後、密告者の正体もギャング一味にばれた上に取り逃がしてしまう。密告者は重傷を負って、殺されるという恐怖に半狂人となってしまう。このときの警察のリーダーが主人公ドンである。

一年後、あのときの密告者はホームレスになり、殺されるトラウマになっている。自分のとった行動への後悔と、本気で密告者を守らない上層部に疑問を抱きながら暮らしている。そこへ、台湾から凶悪犯バーバイが香港へきて宝石店をおそうという情報が入り、一人の密告者を仕立てて、その情報を収集することに。そして選ばれたのが借金で妹が売春まがいに働かされているサイグァイ。

こうして、情報戦を描くサスペンスフルな物語が幕を開ける。

一方このドンには最愛の妻で、今は記憶をなくしてダンス教室で働くシェイという女性がいる。自分のふとしたミスで彼女を自殺に追い込んだドンはもう一度彼女を助けるべくダンス教室に通っているという物語も写される。

一方サイグァイは潜入したギャング組織のところで、バーバイの女デイと知り合う。彼女はバーバイに疎んじられはじめ、心が離れていく一方で、運転手として常に近くにいたおとなしいサイグァイに牽かれていく。

こうして、三つの物語が平行して進んでいく。

サスペンスフルな緊迫感あふれるシーンが続き、派手なカーアクションやバイオレンスシーンもふんだんに展開、見るものを飽きさせない一方で、ドンとシェイ、サイグァイとデイの切ないラブストーリーも見ているものの心をとらえていく。何とも贅沢なストーリー展開である。

サイグァイとデイの買い物シーンでクライマックスでギャングたちがおそう景新宝石店にはいり、デイが一個の指輪を気に入るというプロットがラストで、おそった宝石店でサイグァイがいつの間にかポケットに忍ばせ、瀕死のデイに手渡す下りが何とも切ない。

なんといってもすばらしいのが、クライマックス、盗んだ金塊を分けるときにバーバイに愛想を尽かしたデイが反旗を翻し、サイグァイを巻き込んで逃げる。そして、とりあえず身を潜める。

一方、ドンの妻シェイはドンを憎んでダンス教室に飛び込んできた父親がドンを殴り、それをみたシェイが表に飛び出したところを交通事故に遭う。ところがシェイは新でしまい、自暴自棄になったドンは車で自殺を図るが、エアバッグで助かってしまう。

金塊を溶かされ、証拠がなくなったドンの上司はサイグァイに証人として出廷させるようにドンに依頼、金はその後だと当初の約束を反故にする。

密告者を人間としても扱わない上層部に愛想を尽かしたドンは勝手に金を持ち出し、サイグァイに届けようとその隠れ家にやってくる。

サイグァイを追ってきたギャングのタイピンらがアジトに踏み込み乱闘が始まる。廃校の学校へ逃げ込んだサイグァイをおってくるタイピン、カメラが真正面にとらえるショットから俯瞰で山積みされた机の中で乱闘するタイピン等をとらえる。そこへ飛び込んでくるドン。大乱闘シーンがタンデ・ラム監督ならではのカメラアングルとカメラワークで描写されるこのシーンは映画史に残るほどの名シーンである。

そして、サイグァイもデイも、タイピンも死に、バーバイはこのシーンの前に逮捕され、ドンもそのエピローグで公金を満ちだしたことで逮捕される。その前に、サイグァイの妹を助けるべく金を届けるドンのシーンも忘れられない。

前後して、思うままに書いていきましたが、あれもこれもと欲張っててんこ盛りに盛り込んだ物語が、ややどっちつかずで、視点が分散されすぎたように思えなくもないですが、そのあたりの欠点を無視できるほど、映画としてのおもしろさは最高でした。これこそ香港映画ですね。