くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「からみ合い」「壁あつき部屋」

からみ合い

「からみ合い」
題名の通りめくるめくようにからみ合い展開する丁々発止のサスペンスのおもしろさ、武満徹モダンジャズのメロディと左右対称のシンメトリックな構図、そして、毒々しいほどにぞくっとする岸恵子の美貌が見事なまでにコラボレーションした作品でした。

映画が始まり、いかにも金持ちという岸恵子扮するやす子が宝石店のショーウィンドウに立ち止まる、その手首をぐっとつかみ、ワンテンポの間合いを置いて宮口精二扮する吉田弁護士のせりふが語られる。この間合いのすばらしいファーストシーン。そして、二人が2年半前にさかのぼる冒頭のシーンの見事さはうならせられる。

大手企業の社長山村聡扮する社長河原専造の秘書宮川やす子、この二人のショットから始まる本編。いきなり専造がガンで余命幾ばくもないと語られ、時間制限を設定、そして実子はなくて隠し子が3人いてそのそれぞれを捜すという下りにはいるスリリングな導入部。捜索を依頼された人間たちの様々な謀略が渦巻き、まさに題名のままにからみ合い、だまし合いながらクライマックスへ向かっていく。

そして、最後の最後、暗に策を巡らせていたやす子が潜像との子供と思わせたおなかの中の赤ん坊にすべての財産を取得し、現在の地位となるまでの展開がかなりの見応えがある。結局、最後に赤ん坊は生まれてすぐしに、やす子が財産を得ることになった旨が吉田弁護士に明かされる。ただ、それぞれの策謀渦巻くエピソードがややもたつきがないとはいえない。このあたりはやはり橋本忍あたりの脚本だとスピード感がもう少しあるのだがと思えなくもない。しかし、次はどうなるのかと引き込まれるプロットの積み重ねのおもしろさは第一級品であり、その見所を堪能するだけでもわくわくできるほどにおもしろいのだ。

やはり演出力のある監督が描くとここまで見事なものになるのかとうならせられる。
決して完成度の高い作品ではありませんが、複雑さの中に単純な娯楽性を盛り込んだ意味でレベルの高い映画だった気がします

「壁あつき部屋」
BC級戦犯の物語を描いた非常に重い作品で、戦犯たちのエピソードの手記のようなものを原案に安倍公房が脚本を書いた物語である。

作品は重厚であるが、特に際だったキャラクターを描いた物語ではなく、スガモプリズンの中の物語としていわば群像劇のごときスタイルをとっている。

何人かの主要人物の過去の物語をフラッシュバックで見せる手法で、なぜ戦犯になったかをつづっていますが、そこに描かれるのはアメリカ等連合軍の不条理な対応への批判が見え隠れする。その主義主張故に制作当時3年間というお蔵入りを余儀なくされたというが、この手のテーマをまだBC級戦犯の問題が完全に解決していない年度において制作した小林正樹監督のその勇気に拍手したい気がします。

母親の死で一晩の帰宅を許された男が、期日の時間に帰ってきて、再び格子が閉じられるショットで映画は終わります。まだまだ厚い壁の向こうという意味のエンディングは考えさせられるものがあります。その意味でこの作品は非常に存在価値があるものではないでしょうか。