くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「トリコロール/赤の愛」「クリスマスのその夜に」

トリコロール赤の愛

トリコロール 赤の愛」
この三部作のうちで一番好きな作品はこの「赤の愛」だという人が多いが、なるほど納得してしまいました。私にとっても大好きな映画の一本になりました。すばらしい。

研ぎすまされたほど繊細なショットの数々、ネオン、調度品、車、アーケード、服装など様々なところにちりばめられた赤のイメージ、手前から向こう、向こうから手前と流麗に流れるカメラワーク、そのテクニカルで美しい映像の中で展開されるどこか大人の寓話のような物語はいつのまにかみている私たちを虜にしてしまいます。

男性の手がどこかに電話をしている。回線からケーブルへカメラが追いかけていってまた戻ってくる。どうやら留守らしい。電話の先は主人公バランティーヌ(イレーヌ・ジャコブ)という女性。大学生ですが人気モデルである。恋人のミシェルから頻繁に電話がかかるが留守が多く、二人の仲も冷めがち。

彼女のアパートのそばに法律家を目指すオーギュストという青年がいる。真っ赤なジープを乗りブロンドの髪の恋人と甘い恋をしている。このオーギュストの映像が主人公の物語の所々に挿入されながらストーリーが展開していきます。

在る夜、バランティーヌは車で一匹の犬を曳いてしまう。リタという名前の犬で、首輪に書いてあった持ち主のところへつれていくがいらないという。仕方なく獣医の元につれていくと妊娠しているという返事。

元気になったリタと散歩の途中、首輪をはなしてやると犬は元の飼い主の家に。追いかけてきたパラディーノはその家の主がケルヌという名前の元判事で近所の盗聴をしていることを知る。「教えにいけばいい」というケルヌの言葉に応えず去ったものの、ある日ケルヌが新聞の記事になっているのを知り、バランティーヌは自分が密告したのではないと伝えにいく。

こうしてこのケルヌとバランティーヌの物語がどんどん進んでいく。細やかなインサートカットやエピソードがちりばめられた展開は不思議なくらいに美しく、この二人がもしかしたら恋に落ちるのではないかとさえ見えてくるのだ。

バランティーヌはイギリスでのファッションショーに出発、その招待状を持ったケルヌもやってくる。そこで、ケルヌは若き日に恋人が別の男性と情事をしているところを目撃それ以来女性との関係を絶っていると告白する。

一方、このシーンの前にオーギュストがその恋人に連絡がつかないので訪ねると別の男性とベッドで抱き合っているのを目撃する。このあたりで、判事の物語とオーギュストの物語が重なっていることに気がつきはじめどんどんこの映画に引き込まれていくのである。

やがてバランティーヌは「戻ったら子犬をもらいにいく」約束をし、ケルヌと別れ、フェリーに乗る。失意のオーギュストもそのフェリーに乗る。

帰ったケルヌはある日新聞を見ていると在る記事に目が釘付けに。ドーバー海峡でのフェリーの惨劇。そこに乗っていたはずのバランティーヌをテレビで探す。青の愛、白の愛の主人公も同乗していて助かったショットに続き、バランティーヌがオーギュストに寄り添われて助かったシーンが写りストップモーションで終わる。
じっと空を見つめるケルヌの姿がなんともいえない感動を生み出すラストシーンでした。

細かいプロットがきっちりと積み重ねられ、風でグラスが倒れたり、スロットマシンで色がそろって不吉な予感が走ったり、コインのシーン、投げ入れられた石を暖炉の上に積むシーン、テレビを持っていないケルヌにバランティーヌが二台在るうちの一台を届けるという展開など緻密すぎる脚本と演出に舌を巻く。それほど見所満載のとってもファンタジックなラブストーリーだった気がします。最高の一本でした。

「クリスマスのその夜に」
ファーストシーンがすごい。テレビでツリーに点灯されるシーンが映され二人の子供がみている。突然銃声が二発。母親のカット、子供たちのところにくると一人いない。

その少女は崩れた教会に隠してある斧をとって、どこやらの工業施設のそばのもみの木を切りにいく。銃のスコープからその子供の母親をねらうショット、続いてその少女へ移る。母親が銃でねらわれていることを知り銃の方をみる。少女も気づいて振り返る。銃声のようなばーんという音とともにトラックが雪をはねのける音とかぶる。

このシーンだけでこの映画、ただののほほんとした映画ではないと思うのですが、このあと、ありきたりのオムニバス調のドラマが展開し始める。ファーストシーンのどこかサスペンスフルかつ政治色さえ漂わせるシーンはどこへつながるのかとみていくが結局、老夫婦の物語、追い出された男がサンタの姿になって子供に会いに行く物語、白人と黒人の子供が天体望遠鏡でデートする物語、サッカー選手が落ちぶれて物乞いをして金を集め故郷に戻る話、不倫をしている男の話、そして医師を脅して妻の出産を手伝わせる物語が語られ、どこにつながるわけでもない。

結局、出産した妻をともなって医師から借りた車でスウェーデンへ旅立つ夜道、オーロラに出会い、それを眺めながら妻はかつて一人の少女を銃でねらいながら引き金を引かなかった過去(つまりファーストシーン)を思い出す。

ノルウェーのイヴの夜を舞台にしたほのぼのした数編のクリスマスストーリーというふれこみだが、私としてはどこかまとまりのないオムニバスにしか見えなかった。とりわけ映像がファンタジックでもないし、ファーストシーンがあまりにも浮いているのがちょっと失敗だったのではないかと思えるのですが、いかがでしょうか。