くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「化石「東京裁判」

化石

「化石」
テレビドラマとして制作された作品を再編集して3時間を超える映画作品としたものであるが、当初から映画作品として作り直すことを前提に、別途撮影したフィルムとテレビ版の再編集を重ね合わせて仕上げた物なので、映画作品としてみても何の違和感もない物でした。

映画が始まりいきなりとある建築会社の社長の邸宅の門が真正面からとらえられる。一代で約2000人の従業員を抱える会社に仕上げた主人公一鬼の家から映画が始まる。背後に常に主人公の心の動きを説明するようなナレーションが入る。

これから秘書の船津とつれて休暇のフランス旅行へと旅立つのである。
ところが、現地で体調を悪くした一鬼は現地の病院でガンであることが判明。本人には隠していたがたまたまとった電話で船津と間違えた医師がすべてを話してしまい知ってしまうのである。

一方、パリについた日にたまたますれ違ったマルセラン夫人(岸恵子)の美しい姿に心ならずも動揺する一鬼、そして、死に神の象徴としてマルセラン夫人と二役で岸恵子が喪服を着た女性として死神の象徴のごとく一鬼のそばに現れる。

ちょっとシュールな演出を施して、死を目前にした主人公が、今までの仕事一筋の人生に疑問を感じる一方で、今まで見えてこなかった透明な何かを感じ始め、次の春に日本へ来る予定のマルセラン夫人との高遠への桜見物に不思議なときめきを感じていく。

ところが日本に帰り、ガンの権威である医師にみてもらうと手術ができるという。そして手術は成功、直ってしまうのだ。そうなると今まで見え隠れしてきた死に神の姿は消え、そして、どこか透明感のあった周りの景色が再びのにごり始めたのか、マルセラン夫人が早めに来日することになっても、結局会わず一人旅だってしまう。

仕事一筋の一人の男が、死を直面して見えてくる景色。今までの自分の人生がまるで化石のように感じられる感覚にとらわれるラストシーンの不思議なエンディングはどこか先日見た「燃える秋」と共通するような感覚の作品であるような気がする。

例によって、几帳面に演出された映像はわずかの隙もないのですが、「切腹」や「上意討ち 拝領妻始末」を放っていたころのような全盛期の個性的な重厚な演出は見受けられない。

とはいえ、切々と語られる一人の主人公の姿から漂う人生の機微は3時間を超える大作にもかかわらず圧倒される物がある。それは佐分利信の迫力在る存在感に帰するものもあるかもしれない。いずれにせよ、テレビドラマとして制作してもこの迫力は小林正樹監督の力量なのだろう。

東京裁判
本来ドキュメンタリーは見ない主義である。自分のこだわりでもあるし、ノンフィクションの出来事がその編集の方法によってゆがめられるのがいやだからである。

しかし、今回小林正樹監督特集の一本であり、ドキュメンタリーとしても名作として位置づけられているので、4時間を超える超大作と知りながら挑戦しました。

ご存じのように第二次大戦後のA級戦犯の裁判の様子を納めた膨大なフィルムを小林正樹ならではの視点で再編集した物である。当然、彼の主義、考え方が反映している。

このドキュメンタリーからの印象は、小林正樹監督が常に訴えてきた戦争への問題意識の結実した映像であるということだ。それは反戦ではなく、戦争という物を引き起こす人間にたいする疑問ではないでしょうか。

それぞれの国が自分の国益のために起こした戦争、その戦勝国が敗戦国を人間が作った法律でさも理にかなってるかのように裁く。しかし、そこには未だに存在する西洋人の東洋人に対する偏見さえ見え隠れし、過去の自分たちの所業を棚に上げて今を裁くというご都合主義さえ見られる。

次々と展開する裁判の流れに沿って、実際の戦争に至る事件の数々の映像も挿入されていく。そして、その映像の中にはわずかでも公平という姿は全くない。常に戦勝国は正義で敗戦国は悪であるという論理の上に無意識にたち、諍いを起こすことのばかげた人間たちを演じている人類本人の姿なのだ。

小林正樹が編集して構成していくこの膨大な作品にはそういう愚かすぎる人間の、本当に考えるべき在るべき姿、理想、問題意識が圧倒的な迫力で伝わってくるのである。
もちろん、日本人が起こした戦争はそれはそれで罪があるだろう。しかし、それで個人を裁くのはどこかおかしいと在る弁護人が語る。それなら原爆を落とした人間や命令した人間も裁いてしかるべきだと。

ドキュメンタリーであるから映像テクニックなどは存在しない。ただ、この作品で訴えるべき監督の主張が組み立てられた映像構成と編集によって語られているのである。

4時間を越える長さは非常にしんどいし、次々と関係者の話が語られる内容は正直ついていけないほどである。しかし、伝わってくるものは前述したものではないだろうかと思うのです。