くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「子育てごっこ」「また逢う日まで」

子育てごっこ

「子育てごっこ」
ストレートに感情に訴えかけるいい映画でした。ただ、若干ストーリー展開の構成に間延びした部分と方向性が錯綜する場面がある。そのために終盤で一気にラストへ流れ込むところでもう一度引き戻されてしまう。その点が非常に残念。かつ、俳優さんへの演出がやや時代背景が必要な部分が残る。

今井正監督作品の欠点の一つが、その制作された年代という背景があってこそ名作たることになるきらいがある映画が若干存在する。この作品がその手の一本であろう。

しかし、一人の小生意気な少女が熱心な教師の必死の教育で立ち直っていく展開だけをとらえれば実にすがすがしいほどの名作といえるかもしれません。

著名な作家が知人の紹介でその子供を連れて岩手県の山奥の分校へやってくる。自由奔放に育った少女は小生意気な固まりで、好き放題に振る舞う。しかし、その少女を立ち直らせるべく決心をする主人公の男先生が登場して物語が始まる。

力だけで教育しようとする男先生に優しさで接する女先生の存在が画面をほのぼのと優しくし、次第に少女は変わっていくのですが、途中で挫折したりする男先生の感情の変化が進んだり戻ったりと今一つ一貫性のない演出で描かれていくのが残念。

少女が次第に立ち直る下りも、いつの間にか変わっていくという描写の甘さももの足りません。周りの子供たちとの接する展開も描き切れていないのが今一つ物足りなさを感じるゆえんでしょうか。

ラストで、男先生がこの少女の親になる決心をし、おぶって山を下りていくところでエンディングなのですが、この展開がちょっと唐突に見える。しかし、このラストで、それまでのシーンを自分なりにつなぎあわせてしまえば感動して映画を見終えることができる。その不十分さがこの映画の欠点かもしれませんね。

また逢う日まで
傑作という言葉よりも名作という言葉がぴったりと当てはまるあまりにも美しい純愛ラブストーリーでした。

タイトルが終わると一人の片足のない兵士らしき人物の足が写ります。その歩く足をとらえたカメラはゆっくりと一軒の裕福そうな屋敷へと移る。主人公三郎の家である。カメラが中にはいると主人公が今にもでかけようとするところ。そこへ一通の電報。駆け込んでくる女性。姉が倒れたという。かつぎ込まれてくる姉、なにやら落ち着かない三郎。

物語はさかのぼり、空襲に襲われ地下豪に避難している人々の姿。そこで三郎は一人の女性蛍子に出会う。

彼女は画家を目指す女学生であるが、生活のために戦意高揚のためのポスターを描いている。一目で曳かれた三郎は彼女と頻繁につきあうようになる。甘すぎるほどの二人の恋物語が繰り返し繰り返し描かれていき、雪の日に初めて彼女の部屋に行った三郎は去り際に窓ガラスを挟んで接吻をする。映画史に残る窓ガラスのキスシーンである。

ベンチで会話する二人、絵を描いてもらうシーンなど、純愛そのものの映像が繰り返し繰り返し描かれていく。三郎の兄の死、裁判官である父の描写、娘のひたむきさに不安に思う蛍子の母の姿などが描かれ、時は戦争末期へと進む。

戦時中にも関わらず、三郎と蛍子の姿はとても戦時中と思えないほどに自然な服装であり、お互いそれなりに裕福な家庭であると推測される。一方で時折空襲の描写もあるものの、二人ののどかすぎるほどのデートシーンの繰り返しがかえって不気味な怖さを漂わせる。

しかし、三郎にも赤紙がくる。出征まで後二日と迫る日、蛍子と最後のデートの約束をする。翌日に出征が迫り、十時に駅で待ち合わせるが、三郎が出かけようとすると、姉が倒れたという急報が入る。さらに出征が一日早まった旨の電報。気持ちが焦る三郎の姿。冒頭のシーンになる。

待てどもこない三郎を待つ蛍子の頭上に空襲のサイレン。爆撃で駅が破壊され崩れる駅舎に埋もれる蛍子のショット。ようやく飛び出した三郎は蛍子の家にメモを届け、そのまま出征。

蛍子の母とも行き違いになり、そして昭和20年秋になる。
蛍子が書いた三郎の絵の前に花を添える三郎の姉と父。三郎が戦地で書いた手紙がナレーションになり、三郎も帰らぬ人になったようである。カメラがゆっくりと引いていって家のフルショット、エンディングである。

本当に甘すぎるほどのラブストーリーであるが、一人称で語る三郎と蛍子の心のせりふが絶妙のムードを生み出し、ロマンティックすぎるキスシーンの数々と抱擁シーンがもどかしいほどの切ない二人の恋物語を紡いでいきます。

ファーストシーンとラストシーンを現在型にし、過去を語る形式で描いた物語形式が見事で、ゆっくりと流れるカメラワークのリズムが戦時中の物語でありながら素朴なほどの純愛ドラマとして結実しています。正直、劇的な展開がない分しんどいところもありますが、静かな純愛ドラマが劇的すぎる戦争の悲劇を強烈に訴え欠けてくるようでぞくっとする感覚にもとらわれる。しかし、美しい。これが純愛映画でしょうね。