くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「妖婆」「不信のとき」

妖婆

「妖婆」
何とも珍品でした。オカルトブームに乗った作品だという解説ですが、それにしても一貫性がない。原作は芥川龍之介、脚本水木洋子、撮影宮川一夫、主演京マチ子、このスタッフ、キャストで監督は今井正。そしてできあがったのがどこへ行くのかわからないホラー映画。

前半はお島に恨み辛みをかけていくいとこのさわの物語。このさわがやたらねちこいほどにしつこくつきまとう姿はいったいどういうストーリーなの?といらいらしてくる。

そして終盤はなぜか妙な神に見入られたお島が妖婆になって今度はさわの娘をとりこんでしまう。そして、ラストはなぜかやすやすとさわが薄めを取り返しさわは死んでしまうが、お島は消息不明で終わるという支離滅裂なラストには笑ってしまいます。

宮川一夫のカメラの美学もないし、水木洋子らしい辛辣なシーンもない。当然今井正の卓越したショットもない。ただ、だらだらねちねちと続く女同士の話から神懸かりの話になって、まとまりのないストーリー展開のまま、行き着いてしまう。まぁ、これも今井正の作品と割り切れば、決して損はなかったのですが、何度も書きますが、本当に珍品でした。

不信のとき
これはあまり期待していなかったのですが、どうしてすごい傑作でした。まさに痴話げんかのエンターテインメントとという感じの映画でした。こんなモダンでしゃれたコメディは現代に作ってもぜんぜん遜色がないほどです。

有吉佐和子の原作の面白さもあるのでしょうが、それよりも演じた俳優陣の卓越した演技力のよるところが一番のような気がします。特に終盤で岡田茉莉子扮する道子と若尾文子扮するマチ子が言い争う丁々発止の場面はどこまでが本当でどこまでがうそなのか、これからどうなるのかと引き込まれてしまい、もっともっと続いてほしいと望んでしまうほど楽しい。まさしに女同士の大スペクタクルなのです。

田宮二郎扮する浅井は見るからにエリートサラリーマン。仲のいい取引先の社長小柳と仕事の後のみに行間柄。個室で女の裸を見るという風俗店に出かけるところから映画が始まる。そしてそこで小柳は一人のうぶな女性マユミと知り合う。ある日出かけたバージョルダンでいつものような馬鹿話をしている。先に帰った小柳に代わってそこのホステスマチ子を送ることになり、そこでマチ子の部屋に招かれて私大に仲が良くなる。この浅井が歯の浮くようなしつこいせりふを連発するのが最初は実に心地悪いほどの人物で気に入らなかった。

そして、マチ子は浅井の子供がほしいと言い出し、後腐れなくするからということでつい浅井はマチ子と体をあわせる。浅井の妻道子はどうも不妊症であるというのが検査でわかっているのだというせりふも出て、自分は大丈夫であることはかつて岸田今日子ふんする千鶴子と子供ができたことがあることで証明されたことを話したりする。このあたりの伏線がしっかりとラストで聞いてくるのだからこの脚本は実にしっかりしている。

マチ子の子供ができたころ、なんと、井尼mで妊娠しなかった妻道子にも子供が。どうやら不妊症もそのタイミングでうまく行ったようだと道子に説明される。
それぞれにそれぞれの子供ができる浅井のなんともとぼけたムードが次第に頭をもたげてくる中盤。小柳もお気に入りのマユミと子供ができる。このあたりからなんとも子供っぽい男の性が表面に見栄かkれしだし、なんともほほえましくさえなってくる展開が絶妙なのです。

ある日、マチ子の部屋にいる時に浅いが腹痛になり、その場の機転で自宅に送られた浅井はそのまま救急車で病院へ。急性盲腸炎で入院した浅井は病院ででくわさないようにしてマチ子と道子にあうが、ふとした偶然がかさなって道子がマチ子と鉢合わせしてしまうのである。ここから最初に書いた二人の言い争いのシーンに続くが、このあたりの展開はまさに上質のサスペンスの如しである。もう、わくわくどきどきになってきました。

小柳の愛人マユミも出て行って一人子供に右往左往、浮気がばれた浅井は道子の完全に頭が上がらない上にマチ子は実家のそばで小料理店をするのに足りないので養育費代わりに300万を融通してほしいと頼まれて、会社で退職金の前借の話までことが進む。
道子とマチ子の言い争いの中で、実は不妊症だったのは浅井のほうで、道子は人工授精で子供を授かったのだと浅井に言うし、マチ子の子供は浅井の子供ではないというし、一方でマチ子はそんなことはないというし、どこまでが本当でどこまでがうそかまさにミステリーの面白さなのである。

途方にくれる浅井はデパートでなんと千鶴子に再会。かつて妊娠した浅井の子供をしっかりつれていて、夫も自分の子供だと信じているという。どうやら浅井は不妊症ではなかったのか?いったい、何が本当なのか?
一人デパートの屋上の遊園地のベンチに座り、ぼんやりしている浅井はいつのまにかはにかむように笑って立ち上がってエンディング。

なんとも小気味よいほどに子憎たらしいラストシーンである。男どもはほんとうにふがいないのですが、といって、この過ちの結果不幸のどん底へ落ちていくわけではない。なるようになってこれから先があるという明るい能天気なラストシーンは、これはもうお洒落以外の何ものでもないと思います。社会派今井正監督作品と身構えるとびっくりするような茶目っ気たっぷりの映画でした。掘り出し物に出くわした感じです。