くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ひまわり」デジタルリマスター版

ひまわり

20年ぶりくらいでしょうか。今回はデジタルリマスターされてのリバイバルですが、せっかくのあのひまわりのシーンがテアトル梅田の小さなスクリーンというのは何とっも残念です。

始めてみたときはどうも感動した覚えがなかった。とにかくソフィア・ローレンという女優さんは私の好みのタイプの対局に近い容姿なので感情移入しづらいのである。しかも、物語は大人の男と女の物語だから、学生気分の頃にみた私には何ともしがたい退屈さに浸ったのである。

しかし、50歳を越えてみたこの作品は、まぁソフィア・ローレンに対する好みは変わりませんが、ヴィットリオ・デ・シーカの卓越した演出には脱帽せざるを得ませんでした。

地平線の彼方まで満開に咲くひまわり。そのショットとヘンリー・マンシーニの音楽で映画は幕を開ける。タイトルが終盤で巨大な日輪をアップでとらえて物語はハロシアへ恋人のアントニオを捜しにきたジョヴァンナのイタリア的な豪快なせりふ。時はさかのぼり浜辺でいちゃつくアントニオとジョヴァンナ。

軽快なほどにどんどん物語が進んで、二人はアントニオの出征までの12日間の休暇の間の新婚生活のために結婚。何とか病気を装って徴兵を逃れよとうとしたアントニオはばれてしまってロシア戦線へ。

戦争が終わり、アントニオを見かけたという戦友の言葉に夫の生存を信じるジョヴァンナはロシアへ。ようやく見つけたアントニオは別の女性と結婚し子供さえもうけていた。

駅での再会、お互いに視線が合うも寸前でジョヴァンナは汽車に乗り去っていく。この余りに切ない演出は見事なものである。一人見送るアントニオ。

さてそれからまた時がたつ。絶望の中でジョヴァンナはミラノで新しい家庭を持つ。そこへ訪ねてくるアントニオ。

雨の夜、どうしようもアントニオへの思いを押さえきれなくなく迎え入れたジョヴァンナ。二人は抱き合い、いまにも肌を合わそうとする寸前赤ん坊の泣き声が。この演出こそがヴィットリオ・デ・シーカの真骨頂。すでにジョヴァンナにも息子がいることが描写され、二人の間にはどうしようもない時がたったことが一気に画面からあふれてくるのだ。

ハイスピードで展開する物語に時の流れを見事に描写し、一気に戦争の悲劇が生んだ悲しい男と女の運命の切なさ。
時がたったことを胸に感じて一人また汽車に乗って去っていくアントニオ。名曲が背後に流れてのエンディングはまさに名作の貫禄である。

戦場の場面はバックの白い雪原での戦闘シーンにかぶる真っ赤な旗のイメージ、行軍の末に一人また一人と雪原の中に倒れた兵士たちが点のように点在するモノトーンのショット、ジョヴァンナがつとめるマネキン工場での首、首、とところ狭しと並ぶ無味乾燥な人形のショット、そうしたシーンに対局して広がる暖かい黄色とグリーンのひまわりのシーンはまさにアントニオとジョヴァンナのお互いの恋心の具象化であるといえます。色彩をふんだんに使い、汽車による出会いと別れの繰り返し、さらにお互いに子供がいるという制約による切なさの盛り上げ、微に入り細に入ったヴィットリオ・デ・シーカの演出はこれぞ才能のなせるわざといわざるを得ません。

すばらしい名作だと思いますが、やはり今回も涙は出なかった。どうもこの映画は私には合わないようです。