くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ドラゴン・タトゥの女」

ドラゴン・タトゥの女

2009年のオリジナルスウェーデン版もなかなか面白かったが、ストーリーが凝縮されているという感じで北欧の冷たい重苦しい感じと重なって独特の作品に仕上がって、正直しんどいほどの疲れを感じた。しかし、今回、さすがにデヴィッド・フィンチャー監督はさすがにストーリーテリングが抜群にうまい。前半部分はオリジナル版同様重いムードで描いていくがいつの間にかストーリーの中に引き込まれてしまう。そして中盤から後半、ラスト、エピローグにいたってはまさしく一級品のミステリーとして完成されていた。この物語全体の組み立てのうまさこそがデヴィッド・フィンチャー監督の力量といえると思いました。個人的にはこのアメリカ版のほうが格段に出来が良かった気がします。

まるで007シリーズのオープニングタイトルのようにCG映像をふんだんに使った不気味かつモダンな映像をバックにタイトルが映されていきます。そして、物語は主人公ミカエルが実業家ヴェンネルストレムの記事を書いたもののその名誉既存裁判で敗訴し多額の借金を抱えることにあるところから始まる。そんな苦境の彼に大財閥ヴァンゲルグループの前会長ヘンリックがある依頼をするべくミカエルを呼びます。橋一本でつながった島ひとつに一族が住む彼の屋敷で見返る40年前に失踪した孫娘ハイエットの事件の真相を突き止めてほしいというもの。この導入部はスウェーデン版と同じである。

一方、ある調査期間で敏腕ながらその異常行動から後見人をつけられている天才ハッカーリスベットの姿が描かれていく。ミカエルの物語とリスベットの物語がたくみに交錯され、すでにあらかたの話は知っている私も、いつの間にかそのストーリー展開に行きこまれていく。登場人物がスウェーデン名前なので最初はとっつきにくかったが、それはスウェーデン版のときと同様であるが、さすがにそのあたりはアメリカ版では脚本に工夫が施されているようで、絶妙のタイミングで名前が繰り返されるので、次第にきれいに整理されていくのである。

スウェーデン版との違いはミカエルがリスベットと知り合うきっかけである。スウェーデン版はミカエルが探るハリエット事件のヒントをミカエルのパソコンをハッキングするうちに知り、ミカエルにリズベットが連絡してくるという仕掛けであるが、アメリカ版は完全にジョシュとして別依頼してミカエルにリズベットを引き合わせるという展開にしてある。ある意味わかりやすいのでこの方を採ったのだろう。やや無理があるともいえないし、リズベットが天才ハッカーであるというキャラクターを見せ付ける描写が弱くなるが、それはこれからの展開の中で映像に語らせるという方法をとっているのは正解だったようdす。

リズベットの後見人が突然倒れ、後を引き継いだ後見人に執拗な異常性行為を強制されるくだりは的確な暗転映像を多用して見事にカバーしているのは観客層を広げるデヴィッド・フィンチャーの手腕であろう。このあたりの見せ方はさすがにアメリカ映画はうまい。ドアが閉まりカメラがずーっと引いていくというヒッチコックも多用したシーンである。

そしてミカエルとリズベットはハリエット失踪事件を追い始める。ここからは実にストレートにどんどんなぞが 明らかになってくる。リズベットの天才的な頭脳解析の才能とハッキング能力が次々と真相に迫っていくくだりが鮮やか過ぎるほどに爽快である。そして、リズベット
ミカエルがコンビになるあたりから映像がどんどん動き始め、リズベットのバイクが疾走するシーンなどに動的な画面が多用され始める。謎が解けていく勢いと映像のスピード感が次第に増していくので、どんどんストーリーの中に入り込んでしまうのである。

そして、真犯人はマルティンであることが判明。父が行っていたハリエットへの性行為と少女惨殺を引き継いだマルティンは祖父ヘンリックに遠方の学校へ行かされる。ようやく安全になったハリエットはある日街角でマルティンを目撃するのだ。このときの写真がすべての謎解きの発端になる。

マルティンはミカエルが深層に近づいたことを知り、地下室で殺そうとするが危ないところをリズベットに助けられ、リズベットマルティンのカーチェイスの果てにマルティンは事故死してしまう。
ハリエットは橋で事故が起こった日にアニタの計らいでアニタに成りすまして国を脱出、ロンドンですむようになる。後に本物のアニタと夫は事故死し、ハリエットはアニタとして物語に登場するのです。そしてアニタこそがハリエットだと突き止めたミカエルらは彼女をヘンリックに引き合わせる。

ヘンリックがなぞを解いた見返りに用意していたヴェンネルストレムを再度陥れるために資料は価値がない物だったことが判明したミカエルにリズベットが巧みなネット操作と投資捜査で陥れてミカエルを助けるエピローグはこれまたそれだけで一本の物語になるほどに鮮やかで、この部分だけでも見ごたえ十分。そして、いままで人を信じることができないほどに過酷な人生を生きてきたリズベットはいつのまにかミカエルに惹かれていく。ラストで、ミカエルに会いに行ったところでミカエルが恋人と肩を組んでいる姿を見て静かにバイクをUターンさせて去っていくシーンが実に切ない。この感情的なエンディングが本当に映像的にも美しいし映画的なのです。このあたりにさすがにデヴィッド・フィンチャーと言わしめるところがあったと思います。

本編となるハリエット事件の謎解きの物語、リズベットがヴェンネルストレムを陥れるサスペンスフルな物語、そしてミカエルの実人生での生活の物語と三つが三つそれぞれにスウェーデン版よりも整理され丁寧に描かれ巧みに組み合わされている。これは脚本のできばえもさることながら、映像演出で見事なバランスで組み立てられ、描いたデヴィッド・フィンチャの力量によるところが大であると思います。一級品の作品でした。二時間半あまりがぜんぜん退屈しません。