くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「サウダーヂ」

サウダーヂ

キネマ旬報六位という評価のみで見に出かけた。正直、好みのジャンルの映画ではないことはわかっていたからです。

第一印象、ウザイ映画でした。この言葉がぴったりなのです。とはいっても駄作ではなかった。もしこの監督が普通の商業映画を作ればそこそこおもしろいものも作れるのではないかと思う。映像のリズムというものがわかっている。長回しを多用し、俳優たちの演技と個性に任せきりのような映像だと最初は感じたが、いつの間にかどんどん映像がリズムを持ってきている。奥行きのある構図を多用しとフルショットで描いていくどこか冷静な視点が生み出す映像は不思議なくらいにオリジナリティと若さがほとばしっている。

今時の若者の自主映画のごとく内にこもった閉息感とやるせなさだけがくどいほどに描かれていくのではなく、ストレートな感情が何のわだかまりもなく訴えられているのです。

山梨県甲府を舞台に、賃貸する日本経済の底辺の中でもがくように生きる若者たち。そこへまるでむしばんでくるように入り込んでくるブラジル人やタイ人による就労。彼らには彼らの事情があり、日本に夢を持ち、どん欲に金を稼ぐべくやってきているが、一方の日本人の若者にとってはそれは自分たちの生活を脅かすものでしかない。

ラップで今の現状の不満を発する猛はブラジル人のラッパーに異常なほどの憎悪を持ち、ラストでは刺し殺してしまう。

土方生活で生計を立てる精司はタイからきている女性ミャオに曳かれ、結婚してタイにいこうとするが、ミャオに断られる。タイには夢もない現実、日本で稼がざるを得ない現実、そして日本で絶望する精司の行き場のない憤りがこの二人のエピソードに語られる。

タイ人、ブラジル人たちは寂れゆく日本経済の現状の中で母国へ帰らざるを得ない現実に直面していく。一人また一人と祖国へ帰るシーンが終盤に頻繁に描かれ、沈んでいく現実が目の当たりにスクリーンを埋めていく。

映画は精司とタイからきた若者保坂がラーメンを食べているシーンから始まる。そして土方にでて、水たまりに土方のメンバーが写って歩いていく。左から後を追うように「サウダージ」のタイトルが流れてくるオープニングである。

日本人、タイ人、ブラジル人の生活を描いていく群像劇のスタイルをとっているが、それぞれのエピソードは実に正確にそしてリアリティを交えて見事に描いていくストーリーテリングのうまさはなかなかのものである。このあたりがキネマ旬報で評価された理由だと思うが、ベストテンに入るほどだろうかと考えられないこともない。要するにこの程度のレベルでも六位に入ったという昨年の日本映画の不振の証明であるのかもしれません。

猛がブラジル人のラッパーを刺し、警察に自首する電話をしてパトカーに乗せられるところでストップモーション、タイトルバックエンディングとなる。タイの民族舞踊が踊られる映像にエンドタイトルが流れて映画は終わるが、なんともこだわりのエンディングであるといえる。