くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ものすごくうるさくてありえないほど近い」

ものすごくうるさくてありえないほど近

すばらしい作品に出会いました。作品の完成度の高さでは今年見たうちではいまのところダントツかもしれません。監督は「リトル・ダンサー」などのスティーヴン・ダルドリー
アメリカの9.11事件を扱った原作小説の映画化ですが、なんといってもエリック・ロスの脚本のすばらしさとスティーヴン・ダルドリーの繊細な演出の見事さ、さらにトム・ハンクスと主演のトーマス・ホーン少年の見事な演技力にうならされてしまいました。

もちろん扱うテーマが9.11テロ事件なので、作品を見るにあたっての視点が異なる人がいるかもしれませんが、なんといっても映画作品として非常にハイレベルの逸品であるということは間違いないと思います。

映像が始まると葬儀で墓に収められる質疑のシーン。空っぽの棺を納める行為に憤りを見せる主人公オスカー・シャル少年。どうやら父トーマス・シェルの棺で彼は9.11事件でなくなったようである。オーバーラップを繰り返すタイトルバックと静かな曲で次第にこの悲しい?物語へと引き込んでいく。時間や空間を前後させ、オスカーが自宅に帰ってきて電話が鳴っているシーンや父トーマスと戯れる場面、オスカーの非常に繊細でどこか偏執的な数字へのこだわりを見せる性格、父の死後の不安定な心理状態などが見事な編集と演出で語られていく。隣に住む祖母、さらに父の死後三週間後にやってきた不気味?な間借り人を紹介して映画はどんどん本編へ。時折見せる現実か記憶化不明なような映像の数々もスティーヴン・ダルドリー監督の営巣演出へのこだわりが見られ、見入ってしまいます。

そして一年後、オスカーは父のクローゼットをあさっているうちに青い花瓶を落としてしまい、その中の鍵とその鍵が入ったふうとうを見つける。そしてその鍵の意味を探すべく鍵屋に行って、そこで封筒に書かれたブラックという文字を発見。こうしてオスカーはニューヨークに住むブラック氏を訪ね歩く決心をする。彼なりの緻密な計画と、父と探検ゲームをしていたころの経験から地図を集め、リストを作り、一軒一軒訪ね歩くことに。そして最初にアビー・ブラックという女性の家に出かけるが、今にも彼女の夫が家を出ようとする場面に行き当たる。何とか家に入れてもらい、事情を話し、その家を後にするオスカー。

こうして、さまざまな人たちの家を訪ねるシーンの間に挿入される過去の記憶、9月11日の映像、父との日々などが時に、頭上を飛び去る鳥の群れや飛行機の影などのインサートカットと重なり映像が物語を語っていく展開が実に見事である。

そして数人のエピソードの後ある夜オスカーは向かいの祖母が不在のところで口の聞けないお間借り人と出会う。なんと演じるのはマックス・フォン・シドーである。そして、この間借り人がオスカーの捜索に加わることになって映画がまた一歩崎へと動き始めるのだ。公共機関を使わないオスカーを無理やり地下鉄に乗せる。ガスマスクをつけて乗り込むオスカーの姿はどこかこっけいではあるものの、彼の異常なくらいの神経質な性格、さらに必要異常な警戒心それは9.11事件のトラウマでもあるかもしれない描写となって彼のこの性格を大事にした父の姿も挿入されてどんどん物語が深みを帯びてくるあたりは本当にスティーヴン・ダルドリーの演出と脚本の組み立てのうまさに脱帽してしまうのである。

ある家にやってきたとき、その家に通ずる橋げたが不安定でオスカーは嫌がるが間借り人はどんどん先へ行く。そして家が近づきオスカーがドアをノックしようとするシーンで、かなたに飛行機、さらに嫌っていた公共機関の電車が走るシーンで彼の不安な心理の描写を入れるショットは見事である。

たずねてもたずねても鍵の意味がわからず、どうしようもなくなるオスカーはある日、間借り人に自分があくしている留守番電話を聞かせる。9月11日6件の電話のうち5件を聞かせるうちにたまらなくなるオスカーに間借り人は6件目を聞かせるのを押しとどめる。そしてこの間借り人こそ、オスカーの祖父であることをオスカーは知るのです。

やがて、間借り人は祖母のもとを去る。どうしようもなくなったオスカーはある日、父が残していた新聞の切り抜きに電機を当ててい手、まるで囲んだ裏にある番号を発見。そして底へ電話をするとなんと最初に訪ねたアビー・ブラックの家にかかるのだ。
早速出かけてみると、彼女の夫ウィリアムは遺品回収業を営み鍵の健でウィリアムの営む会社へと案内する。そこでウイリアム青い花瓶に隠していた鍵の話しをするのである。

トーマスの生前ウィリアムは父の遺品であった花瓶をトーマスに譲ったのだ。後にその鍵のことを知り、トーマスを探し始めるがときすでに遅く、9.11事件の後だった。見ず知らずのトーマスを探しようもなくあきらめていたという真相が明らかになる。てっきり父がオスカーに残してくれたメッセージだと思っていたオスカーは狂ったように自宅に帰るが、母に実はオスカーがブラック氏を尋ねまわる同じ道順で母が先回りしていた事実を知る。母との間に角質があったオスカーはこのことで一気に心を通い始める。この展開の見事さは原作によるものだと思うが、ここにいたるストーリー構成の組み立てのうまさは脚本の見事さだと思わざるを得ません。

すべてを知ったオスカーは父の生前、父が話していたブランコに乗り、その台座の中に隠された父のメモを発見する。一方母はオスカーの捜索ノートを読み始める。題名は「者菅生うるさくてありえないほど近い」。最後のページ、ツインタワーに飛び移ろうとするオスカーの挿絵がかかれている。

その後、オスカーは過去に訪ねたブラック氏全員に手紙を出し、そして祖父であり間借り人だったおじいさんにも手紙を出して、戻ってきてと記す。
祖父が帰ってくる。玄関で待っていた祖父を無視して買い物帰りの祖母が通り過ぎるが、買い物袋を廊下において歩いていく。それをもってきてほしいという祖母の祖父を許す態度を示す見事なシーンである。

こうして映画が終わる。9.11事件の悲劇を中心にしているとはいえ、見事な人間ドラマとして完成されていて、しかも映像でその物語を見事に語っていく。原作のすばらしさを完全に映像として昇華させた見事な脚本と演出に拍手したい一本でした。