くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「人生はビギナーズ」「アニマル・キングダム」

人生はビギナーズ

人生はビギナーズ
ちょっと個性的でしゃれた映画でした。母に先立たれた父ハル(クリストファー・プラマー)。五年後息子のオリヴァー(ユアン・マクレガー)に自分はゲイだと告白して新たな人生を歩み出す。一方のオリヴァーは何事も不器用で、すでに38歳で独身。仮装パーティで知り合った女優のアナ(メラニー・ロラン)と恋のような友人関係のような交際を始める。物語は現代のアナとオリヴァーの物語にガンを宣告された晩年のハルの生活、時にオリヴァーの子供時代の母との思い出などが繰り返し繰り返し挿入される。時々、オリヴァーの妄想で父ハルが現れて語っているかのような錯覚にも陥る映像展開がとってもしゃれている。監督はマイク・ミルズという人です。

そしてオリヴァーにぴたりとついているのが愛犬のアーサー。時々テロップでこの犬がオリヴァーに語りかけるせりふなども挿入されて、ちょっとコミカルなシーンも盛り込まれる。

オリヴァーがアーサーから離れようとすると差魅し王に泣き出すというちょっと愛くるしい描写もまた楽しい。

こうして、何の抑揚も進展もなく淡々と繰り返される物語に軽快なピアノの音がはさまれ、オリヴァーが書くイラストがアクセントになって映像を飾る。何事も試してみること、すべての最初の物語として、初めてのカップル、初めての恋人、初めてのゲイなどなど。

やがて父の死の床のシーンが描かれなき伏せるオリヴァー。なぜかさらせてしまったアナを探して、二人は再度巡り会い、「じゃぁためしてみよう」と声をかけて映画は終わる。何事も初心者になって、なにもかもリセットして、なにもかもチャレンジしていく。そんな前向きなテーマがさりげなく伝わってくるどこか不思議な、でもとっても静かな一遍でした。それにしても、クリストファー・プラマーは年とってもかっこいいですね。大好きな俳優さんです。

アニマル・キングダム
海外の映画祭で話題になり、様々な賞を受賞した話題作。期待の一本でした。監督はデヴィッド・ミシュッドという人で今回初監督です。

重い。もう少し息を抜くシーンがあっても良さそうなものですが全編、地を這うような展開が延々と続く。しかし、確かに話題になるだけあって傑作でした。

主人公のジョシュアのせりふが非常に少なく、しかもあってもぼそぼそと語る程度にも関わらずものすごい存在感で物語を引っ張ってくる。そして、前半のよどむようなストーリー展開が終盤になって一気にサスペンス色を彷彿とさせていき、ラストにいたってあっというエンディングとやっぱりという納得、そしてぞくっとする悪寒に襲われて映画が終わるのです。

主人公ジュシュアの母がヘロインの過剰接種で自宅で息を引き取るところから映画が始まる。体格もよくてひねた容貌ですがまだ高校生の主人公ジョシュアは祖母に引き取られることになる。何とも優しそうで明るい祖母につれていかれた家はどこか不気味な伯父さんがたむろしている。ここでそれぞれの伯父の人間性が説明され物語は本編へなだれ込んでいく。

伯父の一人バリーが警官に撃ち殺されその報復に冷酷なポープ伯父がクレイグ伯父を伴いジュシュアに車の手配をさせて警官を撃ち殺す。この事件の捜査劇の中に引き込まれていったジョシュアは恋人のニコールの家に逃げ込んだりを繰り返すが事態はどんどんジュシュアを巻き込み、さらにニコールさえも口封じにポープの手に掛かって死んでしまう。

ジョシュアは一族の中にいては危ないと知り一人の刑事の手配で証人保護システムの中にはいるが、実はジョシュアの祖母は裏社会で様々なコネクションを持つ人物だったのである。このあたりからこの祖母の存在がどんどん大きくなりはじめ、どこまでが真実かわからなくなるほどに不気味になっていく展開が寒々するほどにミステリアスになっていくのです。

祖母に手を回され、証人保護システムで隠れていた先さえも警察に襲われる始末になっていき、警察も信用できなくなったジョシュアは再度祖母の元へ。そして最後の裁判で有利な証言をし有罪確定寸前だったポープ伯父とクレイグを救出するのです。

その法廷シーンは描かれていませんが、その前の弁護士との打ち合わせのシーンが何ともスリリングです。

そして、ジョシュアは祖母の家に居場所見つけ帰ってくる。無罪になったポープ伯父もクレイグ伯父もいる。二階のベッドで休むジョシュアのところへポープ伯父がやってくる。と、瞬間ジョシュアはポープを撃ち殺し、階下に降りて祖母と抱き合ってエンディングとなる。次第に一族の中に歪みが生まれてきた現実を見つめながらもその絶大な裏の力で必死で守ろうとする祖母の迫力が一気に吹き出してくるラストシーンでした。

アメリカ映画のような派手なドンパチもなく、徹底的な充実感を醸し出す映像と緻密に寝られた脚本によるストーリー展開は確かに陰惨であるし重いですが、見た後の充実感は半端ではありませんでした。好き嫌いはあるかもしれませんがこれは傑作の部類に入る一本だった気がします。