くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ポエトリー アグネスの詩」

ポエトリー アグネスの詩

魂を揺さぶられる映画というのがある。この「ポエトリー アグネスの詩」という映画はまさにそんな魂を揺さぶる映画でした。監督は「シークレット・サンシャイン」のイ・チャンドン監督である。

病院でアルツハイマーの初期と言われた主人公の老婦人ミジャはかつて興味のあった詩を書いてみたくなり教室に通い始める。様々な花や景色を見ては書こうとするがどうしても浮かんでこない。そんな中、孫が自殺した少女の事件に関わっていることを知り、その解決していく中で本当の真実、本当の解決を見いだしたとき彼女に詩が浮かんでくる。じわじわと迫ってくるストーリーの迫力が素朴なカメラ表現の中でふつふつと沸き上がってくる終盤は全く見事でした。

川の水面がきらきらと輝いているシーンから映画が始まる。ゆっくりとカメラが土手で遊ぶ子供たちをとらえる。そして水面に移動すると一人の少女がうつ伏せになって漂っている。タイトル。

後にわかるが、この浮いていた少女は自殺したヒジン・アグネスという少女である。

一人の老婦人が病院で診察を受けている。腕がしびれるということであるが、ちょっとしたことが忘れてしまうと医師に話したところ、そちらのほうが重要だと精密検査を進められる。みている私たちもこの婦人ミジャが痴呆の初期であることが薄々わかってしまう。

彼女は詩の教室に興味を持ち、そこへ通うことに決めるが、一ヶ月の授業の終わりまでに生徒みんなが一遍の詩を書くことを提案される。

離婚した娘の孫ジョンウクと二人きりのミジャはヘルパーの仕事をしながら生計を立てているが、ある日孫の友達の父親から集まりたいという申し出がある。いってみると、どうやら孫とその友達6人が一人の少女に性的暴行を加え、その少女が自殺したことを知る。その少女が冒頭のアグネスである。

そして、その示談金として一人500万ウォンを集めてことを公にしないことが決まるのだ。

非常に素朴なカメラがこうした劇的な展開もまるで日常的なドキュメンタリーのように映し出していく。
ところどころに必死で詩を書こうとするミジャのショットなども交え物語は次第に終盤へ。

父兄たちに提案された金を作るべく、ヘルパー先の老人の申し出を受けて体を与えるミジャ。そしてそれを機会に鐘を作り、なにもかもに決着をつけるべく決心をする。
詩の朗読会で知り合った気の良い刑事にことの次第をはなし、孫を逮捕させ、離れていた娘を呼び、アグネスの写真を前に詩を書いて、花を添えて授業の最後の日に先生に提出する。そして、自分はいずこかへ行方をくらましてしまうのだ。いや、アルツハイマー故にすべてが消えてしまったのかもしれない。

ミジャがたどった道をカメラが再度とらえていくがそこにミジャはいない。かつて少女が飛び降りた橋の上にカメラがやってくるとそこに一人の少女が川を見下ろしている。そしてゆっくりと振り返る。彼女はアグネスだ。背後にミジャが最後に「アグネスの詩」として書いた詩が流れる。

金で決着し、すべてを隠そうとする父兄たちの行動に反し、すべてを収束させるべく計らい、アグネスの死からの再生とこの事件への本当の決着を精神的に達成しようとしたミジャの切なくも力強い意思。どうしても書けなかった詩がここにいたってようやく心の底からあふれだし、最後に書いた詩には死後の世界にいるアグネスへの様々な語りかけがつづられている。

素朴な映像ながら非常に力強い主人公ミジャの心の葛藤と決断が見事な映像演出で散文詩のように語られていく様にスクリーンから身動きできないほどの感動を味わってしまいました。

シークレット・サンシャイン」も実に奥の深い人間ドラマでしたが、今回も見事なドラマだった気がします。