くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「魚影の群れ」「台風クラブ」「雪の断章 情熱」

魚影の群れ

「魚影の群れ」
今は亡き緒形拳さんと夏目雅子さん主演のドラマです。

下北半島の漁師町を舞台にマグロ漁に半ば命を懸ける主人公房次郎の娘トキ子が恋人俊一を連れて帰ってくるところから映画が始まる。

トキ子と一緒になるべく、親から受け継いだ喫茶店を処分し房次郎の元で漁師をすると決意したものの、初日から船酔いになるなどさんざんなスタートとなる。相米慎二監督の極端な長回しがこの作品でも様々なところでその効果を発揮する。特に、房次郎がマグロを捕獲するシーンの圧倒的な緊張感が最高の効果をあげている。

また、家を出た房次郎の妻アヤと北海道で再会するシーンの情感あふれる演出にも目を見張る。

旅館の二階で過ごす房次郎、雨が降ってくる。下駄の鼻緒のアップからカランコロンと音を立て房次郎を見つけるアヤの姿が映され、アヤを追いかける房次郎と逃げるアヤのシーンが延々ととらえられる。激しい雨の勢いと重なるすばらしいシーンである。

ある日、房次郎と俊一が漁に出かけ俊一がテグスには挟まれ大けがをする。それでもマグロを優先した房次郎に愛想を尽かしたトキ子たちは家を出る。

やがて漁師になって戻ってくる俊一だが、来る日も来る日もマグロを捕ることができない。その苦悩に苦しむある日一人ででた俊一は命がけでマグロを捕獲し、瀕死の状態で海でさまよう。

帰ってこない俊一を心配しながらも父に頼めないトキ子だったが、一夜開け、どうしようもなく涙で父房次郎に探しに行ってほしいと土下座する姿が実にせつない。そして、ようやく俊一を見つけたもののすでに瀕死。しかしマグロはかかったままなのでそれを引いて急いで戻ろうとしたが途中で俊一は死んでしまう。

港へ帰ってくる父の姿を迎えるシーンで映画は終わりますが、情感あふれるエンディングは正当な人間ドラマを描いても独特のムードの作品に仕上げる相米慎二の力量を見せつけられた一本でした。

台風クラブ
デレクターズカンパニーシナリオコンクール準入選作品の映画化で、熱狂的に指示するファンがいる評判の映画で、ようやくみることができました。

好き嫌いがあるかもしれませんが、なるほどこれは傑作です。相米慎二監督の長回しとロングショットという撮影スタイルが最大の効果をもたらした物語と呼べる一本だったと思います。

台風が四日後にやってくるという予報のでている山村のとある中学校。一見のどかで平和な地域にも関わらず、どこかバランスが崩れている。再三登場する左右対称のシンメトリーな構図がその前後に起こるアンバランスな物語をさらに引き立てます。

木曜日、夜のプール、左右対称の非現実的な画面から映画が始まる。そこへなだれ込んでくる水着姿の少女たち。狂ったように踊り始める彼女たちになぜか、サーチライトが照らす。そして、泳いでいた少年明がおぼれて、夜道をランニングしている野球部の少年二人を呼びこの物語は幕を開ける。

この映画に決められた主人公は存在しない。微妙に揺れてやり場のない鬱憤を抱えたアンバランスな少年少女たちがストーリーを牽引していく。先生でさえもあまりにも俗っぽくてどこかふつうの印象とはあまりにも人間くさすぎる。

次第に空の雲がよどみ始め、やがて台風がやってきて、少年少女たちのバランスが一気に彷彿し崩れていく。突然家出をする理恵、学校の居室で一夜をあかし雨の中下着姿で踊り回るそのほかの少年少女たち。カラオケに狂う教師。なにもかもが行き場のない方向へ爆発していく様はロングショットと長回しの演出と台風の音響効果、さらに背後に流れるメロディによってどんどん増幅されていく。

そして一夜があけ、三上という少年が窓から飛び降りる。ぬかるみに頭をつっこんでいるショットを見つめる少年少女たち。

家出をした理恵が途中で明と合流し何事もなかったかのように学校へ。画面はこの二人にズームインして小さな巣婦りっとイメージでエンディング。

ぞくっとするほどの怖さとあまりにも日常的な一瞬、些細なものが狂わせる繊細な少年少女たちの姿。一瞬で吹きあがり一瞬で通り過ぎるようなひとときの非現実的な日常に思わず席を立てないほどの衝撃を受けました。なるほどATG作品らしい勢いあふれる一本だった気がします。

「雪の断章 情熱」
当時大好きだった女優としての斉藤由貴さんのアイドル映画です。しかし、相米慎二の演出は随所にその個性的なショットをふんだんに見せてくれます。

その最たるものが冒頭の主人公伊織が雄一に引き取られるまでの様々なエピソードをワンカットで見せるシーンである。それ以外にも一人で悩む伊織の前にピエロが登場したり、ラストシーンで雄一に伊織が「キスして」とささやく場面の外にボールに乗ったピエロが流れていたりと、得意のシュールなショットも散りばめられています。

物語は雪深い夜、まだ7歳の孤児の主人公伊織がジュースを片手に橋の欄干を危なげに歩くシーンに始まる。あまりのあやうさに声をかけてしまう雄一。里子で引き取られた那波家で使用人のように使われている伊織を自宅に引き取り育てる決心をする雄一。親友の大介もそんな雄一と伊織を見守る。

こうして二人の男性に育てられる少女伊織の物語が始まります。

伊織が高校生になったとき、その悲劇が起こる。かつて育てられていた先の娘裕子の歓迎パーティで裕子が何者かに毒殺される。たまたまその場にコーヒーを届けた伊織が疑われるが、その真相はわからない。

そんな中、次第に少女から大人に変わっていく伊織のさりげない、そして淡い恋心が芽生えていく様が実に初々しい。ヒット曲「雪の断章 情熱」が流れてくると自分の青春時代さえよみがえってきて胸が熱くなってしまいました。

ふとしたことで真犯人が大介であると知った伊織ですが、似た境遇でもある大介を守るとともに、三人の関係を崩したくない想いと密かに恋いこがれる雄一への思いもあって隠し続ける伊織を演じた斉藤由貴の姿が本当に愛くるしいのです。

九州へ赴任する大介について行く決心をした伊織ですが、その朝大介はすべてを告白した遺書を残し自殺する。そして伊織のことを雄一に託すのである。

本心を素直に行ってほしいと詰め寄る雄一に伊織は一言「キスして」とつぶやいてエンディング。ああ、せつない。でも斉藤由貴のあのくりくりの目が印象的なラストでした。

エンドタイトルにピエロが登場し、最後に忠臣蔵の討ち入り後の映画のシーンで終わる。なんともアイドル映画とはいえお遊びもふんだんに入った一本でした