くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ドライヴ」「父の初七日」「セックス・ジャック性戯」

ドライヴ

「ドライヴ」
監督はデンマーク出身で本作でカンヌ映画祭監督賞を受賞したニコラス・ウェンディング・レフンという人。おもしろそうな内容だし、大好きなキャリー・マリガンも出ているので期待の一本でした。

とってもシャープでクール、しかもモダンなフィルム・ノワールの秀作でした。
ストーリー展開もおもしろいのですが、光をテクニカルに利用した美しい映像演出も見応えがありました。

一人の男(ライアン・ゴスリング)が夜景を見ながら電話をしている。これからの仕事の段取りのようで、5分間は何があっても待つというようなせりふが聞こえる。そしてタイトル。車を物色し目立たないグレーの車を選び、夜の町。二人の強盗がとある建物に入っていく。ハンドルのにつないだ腕時計で時間を計る男。犯人が出てきて乗り込むとゆっくりと車を出す。傍らに警察無線を聞く無線機。

パトカーの動きを読み、ゆっくり走りかと思うとハイスピードへ、ヘリコプターの動向も的確に把握して縦横に車を走らせまんまと巻いてしまう。このファーストシーンのスリリングなこと。一気に物語に引き込まれる。

この男、昼は車の整備工場で働き、アルバイトで映画のカースタントをこなし、夜は犯罪者が犯行後、車で逃がす仕事をしている。最後まで名前を明かさず、ドライバーとだけ紹介されるストーリー展開が実にクール。夜のビル群を俯瞰でとらえる画面はまるで宝石を散りばめたかのようなショットであるが、この男の孤独感を光で描写するかのごとくである。

整備工場の主シャノンはドライバーの腕を買ってレースをする夢を抱き、出資者に裏社会のローズに声をかけ金を工面する。このローズにはニーノというやたら顔のでかい友人がいるがどうも胡散臭い。ローン・バールマンという個性は俳優が演じている。

ある日、ドライバーは同じ階の女性アイリーン(キャリー・マリガン)と息子ベニシオに会う。一目で惚れ、たまたまアイリーンの車が故障したのを機会に急速に親しくなり、子供とも意気投合。彼女の夫スタンダードは刑務所にいて、まもなく出所してくる。しかし刑務所で作った借金のために強盗を強要されて困っているとドライバーは打ち明けられ、アイリーンのためにドライバーはスタンダードの手助けをすることに。

当日、駐車場で待つドライバー。一台のごつい車が駐車場へ。共犯の女が出てくる。続いてスタンダード。しかしスタンダードはいきなりショットガンで撃たれ死んでしまう。不審に思ったドライバーは女だけ乗せて逃亡。急速に追ってくるごつい車。何とか逃げおおえたが、この仕事に裏があることが見えてくる。まるでヒッチコックを思わせるサスペンスフルなシーンである。

時折背後に流れる歌声がなんともいえないモダンなムードを醸し出すが、終始、にこりともせずに淡々と仕事をこなしていくドライバーの描写が実にクールかつ不気味でもある。

裏にニーノがからみ、盗んだ金はマフィアの金でそれを横取りしたことがわかってくるとこの仕事に絡んでいたローズもシャノンやドライバーに牙をむいてくる。しかし、持ち前の機転で次々と逃れていく様が展開するのだが、決して爽快感はなく、金槌で殴打したり、顔を足で踏みつぶしたりとかなりなハードバイオレンスシーンが展開する様はどこかグロテスクでもある。

前半のシャープな展開とうって変わるバイオレンスティックな演出が独特のスタイルになってきます。

アイリーンに別れ言葉を残し、最後にローズとの取引へいくドライバー。相打ちに近い形でローズを殺し、夜の町へ車に乗って去っていく。腹にローズによって刺された傷があるがこの後彼がどうなったかはわからない。

結局、このドライバーという人物がどういう過去があって、どういういきさつでここへきたかはいっさい語られず、5、6年前にやってきてシャノンに気に入られ雇われる。スタントマンの仕事の傍ら行う犯罪者逃亡を助ける仕事をなぜ彼ができるのかも語られない。謎のままにおわるという実にクールな映画である。

夜景だけでなく、昼のシーンでも太陽の光を斜めから当ててみたり、陰る光をまぶしげに対象に当ててみたり、さらにはエレベーターの中で顔を踏みつぶして殺すシーンで、アイリーンの後ろでドアが開いた様子が光を入れることで表現したりと光の使い方が実にモダンである。

ストーリーは一見、複雑でもあるが、本筋は非常にシンプルで、一本筋の通った物語に淡々としたプロットがつなぎあわされて深みのあるドラマに仕上げられている。このあたりの練り上げられた脚本も見事である。

サスペンスアクションとも呼べるが孤独な男の人間ドラマともとれる。この深みのあるストーリーとスタイリッシュな演出を堪能できる一本でした。

「父の初七日」
台湾でロングランヒットした話題作ですが、なんとも邦題が今一つ。でも時間も許したので見に行きました。

どこから手をつけるのかわからない映画でした。退屈といえば退屈だし、どうしようもないといえばそれまでの映画です。台湾の田舎の葬儀の風習、とりわけ道教の儀式など全く知識がない。のですが、主人公アメイもそんな古風な儀式は知識がないのです。だから、叔父のアイーが道師で、様々なことを司っていくにしてもいわれるままに従うばかり。自分たちは顔のメイクをしてみたり、泣けといわれて泣いてみたり、とにかくいわれるままの姿が映されていく。

にもかかわらず、コミカルにも見えず、もしかしたら自分たちも葬式に遭遇したら右往左往するうちに親戚たちのいわれるままに事を運ぶのだろう。

ただ、この作品、何度かでてくるのが主人公アメイが父にバイクに乗せてもらい、18歳の誕生日に肉ちまきをプレゼントにもらうフラッシュバックのシーンと、遺影を運んで背中に担いでバイクに乗るシーンである。

そして、バイクに乗せてもらった日々の会話がかぶってエンディングだが、空港で父の思い出をふと思い出して泣きじゃくる主人公のせりふが重なる。

取り上げるほどの一本ではないけれども、全体にとってもあったかい映画だった。黄色を基調にした色彩もどこか暖かさがにじみ出てくる。国柄の違いとかもあるし、作品のレベルも大したことはないけれど、こうして思い返しながら感想を書いていると、血の通った作品だった気がします。集まっていた人たちがそれぞれの生活に戻り、主人公アメイが一時間半も泣いてしまったというせりふで締めくくる場面を思い出すと、本当に生身の人間のドラマだった気がします。コミカルでユーモアあふれるエピソードもこれが人間なんだなぁと思うのです。

「セックス・ジャック性戯いろはにほへと」
アナーキズムの到達点にたった若松孝二監督作品というわけで、特に好みというわけでもないが見る機会も少ないかと思い出かけました。

安保闘争のデモのシーンから映画が始まる。一人の女みどりが自分たちのアジトのマンションへやってくる。エレベーターに乗れず階段で上る途中で刑事につかまり、持っているビラをとられアジトの部屋へ案内させられる。そこには行動派のリーダーの大須を含め学生運動の青年数人がいたが、あわやのところで拳銃を奪って散り散りに逃げる。

その途中でこそ泥をして逃げているという鈴木という若者が加わり、彼の導きで川縁のアパートへ移り隠れる。

連日新聞の記事を見るも大きなセクトの動きもなく、自分たちの今後を模索する若者たち。SEXでしかそれぞれの連帯感を確かめようがなく執拗にみどりと交わる学生たち三人。

しかし、ほどなく大須が捕まり、アパートの隠れる学生たちの中でのリーダー格の戸川は次第に鈴木に疑念を持ち始める。彼が夜、留守の時に限り翌朝の新聞に交番襲撃などの記事が出るので、実は彼がやっているのではないかと思い始めるのだ。

そんなある日、首相暗殺事件が起こり私服刑事が鈴木をマーク、川縁のアジトで逮捕すべく集まってくる。実はアジトをばらしたのは大須であり、鈴木はピストルで刑事たちを殺し大須も殺してしまう。そしてエンディング。

学生運動に参加し、社会への挑戦と勝利を目標に活動せんと模索するも、一向にそれぞれのセクト間の連携もなく、先が見えてこないことからのあせりが募りSEXに絆を求めるだけの学生。そして、そんな口ばかりの学生たちへの若松監督の辛らつなメッセージを含んだ画面が鈴木という破壊だけが目的の青年を登場させることによってさらに増幅され、本当の意味での社会の無政府状態を訴えかけたのがこの映画ではないでしょうか。非常に濃厚なテーマで、製作された1970年という背景をみるとさらにそのメッセージは強烈なインパクトを当時の若者たちに与えたでしょう。こういう映画も存在したということをしっかりと記憶しておきたいと思えた一本でした。

ただ、オリジナル71分らしいですが、1時間で終わってしまった。かなり痛んでいるフィルムだったようです