くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「超能力者」「ビースト・ストーカー/証人」

超能力者

「超能力者」
時間つぶしに見た友人が結構おもしろかったよということで、予定していなかった韓国映画ですが、見てきました。

こじんまりしたSF映画で、この手の題材を扱ったアメリカ映画のような派手な娯楽作品にならずに、東洋的な人間の心理的な部分に視点を当てたドラマ性もしっかり兼ね備えた映画だったと思います。ただ、いかんせん時に陥る典型的な韓国映画の稚拙さが見え隠れしていることも確かで、眼力で人間を操る超能力者チョインを演じたカン・ドンウォンの鬼気迫る熱演がずば抜けた存在感なのですが、対する、超人的な回復力を持つイムを演じたコ・スがコミカルなキャラクターで奮闘するのがお互いに打ち消したような状態になって全般に平坦になってしまったのは残念。

雨の中、目に包帯を巻いた少年が母親に引かれて歩いているところから映画が始まる。片足が義足のこの少年、包帯をとって目が露出すると自分の意のままに人を操ることができるらしく、それを恐れて母親は包帯を巻いている。みだらな父親を自ら首をねじらせて殺してしまう導入部が実にシャープで見事。

そして、時は現在。スクラップ屋で働くイムは黒人と白人の気のいい友人と生活しているが、誕生日に交通事故に遭い、今の仕事を辞め別の仕事に。どうやら金融業者らしい新しい職場で、時折帳簿がおかしくなると社長にいわれる。たまたま友人二人が遊びに来た日に突然、その場の人たちの動きが止まり、現れたのが不気味な青年チョイン。チョインは金融業者などの目で操り金を盗んで生活をしている。ところが、その場でイムだけが自由に立ち上がることに気がつき、チョインは畏怖の念を呼び起こされる。

しかし、その場の社長を殺し、まんまとにチョインは逃げるが、イムが友人と執拗に追い続ける話が物語の中心になる。

例によって、警察はバカみたいだし、チョイン以外はすっとぼけたキャラクターを貫いているのがかえってアンバランスで、全体の緊張感、そして超能力があるために阻害されてきたチョインの孤独さを描くべき後半が非常に弱くなっている。一人、悲劇の超能力者としてのチョインだけが一人相撲をしているようになってしまい、同様に人並みはずれた能力を持つイムが次第にその能力故の孤独感に同調していく展開を目指しているようだが中途半端なアクションシーンで締めくくられた。

結局、二人の友人も殺され、怒りが爆発したイムは屋上からチョインもろとも飛び降りてチョインを倒す。自分は超人的な回復力で車いすながら助かり、エピローグ、かつてのつとめた質屋の娘が夢だったスチュワーデス姿で地下鉄のホームにたっているところで子供がホームに落ち、イムが叫ぶとなぜか彼は体が全快し、子供を助けて反対側のホームにいてエンディング。

おもしろい題材であり、東洋的な視点で描かれる物語はうまくいけば傑作になり得たかもしれないが、二人の主人公がお互いに相殺するようなイメージになり、全体がメリハリのない平坦な作品に仕上がってしまいました。突っ込みどころが満載でそれを楽しむのもこの映画の面白みかもしれませんがその辺が残念。ただ、熱演したカン・ドンウォンには拍手したい。

「ビースト・ストーカー/証人」
「密告・者」のダンテ・ラム監督がこの2年前に監督した作品なのですが、これがとにかく面白かった。ここまでしなくてもいいだろうと思えるほど練りすぎるくらいにてんこもりに盛り込まれた登場人物の過去を背景にスリリングなフィルム・ノワールが展開する。まさに映画は娯楽だと徹底的にこだわる香港映画ならではの面白さでした。

ニコラス・ツェーふんする刑事のトンが犯人のアジトに踏み込む場面から映画が始まる。仕事のできる刑事ではあるが例によって部下たちに厳しい。踏み込みに失敗したトンと相棒のシンはそのあとの事件の犯人が逃走する車を偶然発見し追跡をはじめる。このカーチェイスのシーンは短いがこの展開がラストシーンまで尾を引くように組み立てられている。

ハイスピードで追跡するが、車が横転してしまい動きができなくなる。一方犯人の車に別の車が衝突し、仕方なく身近にあった車に乗り換えて逃走。その車をトンは犯人の車に向かって発砲。その車はそのまま事故を起こし犯人は死亡、駆け寄った車の後ろのトランクを開けると女の子が乗っていてトンの銃弾に死亡していた。この少女、判事であるアンの長女イであった。

そのトラウマによってトンが行方をくらまして三ヵ月後。公園でトンが一人の少女をスケッチしている。その少女はアンの次女リンである。そこでリンと親しくなったトンはリンの学校の料理実習を参観することになる。ところがその席でリンは何者かに誘拐される。犯人はアンが担当する事件の犯人張が雇った元ボクサーのホンで、張の犯行の証拠物件である血液サンプルをアンに破棄させるために誘拐したのである。

アンに対する罪の意識からリンを救出するべくトンは行動を開始する。

このホンには寝たきりの妻がいて、自宅の地下で療養している。その薬代などのために依頼されて誘拐をしているのである。ホンは片目が不自由で見えるほうの目も色を判別できない。この設定もちゃんと終盤までの伏線になるのだからなんとも凝った設定である。

ホンから送られてきたリンの拉致された映像からネオンの光にヒントを得たトンはようやくリンの居場所を突き止める。
一方、張はアンに早くサンプルを破棄しないと子供を殺すと迫ってくる。その上、ホンにリンの左腕を切断して写真を送れなどという脅すシーンもあり、二転三転というよりこれでもかというほどの見せ場の連続である。あわやリンの腕が切られるかというところでトンの相棒のシンがリンが拉致されていたところでホンの妻を発見。妻を確保したことを告げてホンにリンの手を切るのを思いとどまらせる。

アンはどうしようもなくなってきて証拠物件を処分しようとするが、すんでのところでトンはリンを救出する。このリン、途中でホンの隙を突いてホンの妻の携帯から助けを送ってみたりと大活躍なのである。

リンを救出したもののトンとリンはホンに執拗に追跡され、その格闘シーンもスリリングに展開する。この監督の演出の個性なのか、冒頭はほとんど手持ちカメラを多用したリアリティのあるシーンが続くが、中盤から斜めの構図なども交えた不安定なイメージを呼び起こす画面が連続してくる。

必死で逃げるリンのシーンもあり、この少女も大活躍である。そして、いまにもホンにつかまらんかと思われたときに資材が崩れてリンは土に埋まってしまう。ええ!まだリンは危機に陥るの、このまま死んでしまうのとさえ思ってしまうが、そこへトンガ到着、ホンを殴ってリンを助け出す。しかし、息をしない。もうだめかと思われたところで指が動いてほっとするが、ホンが立ち上がる。なんとも、これでもかという展開である。しかし、ホンの目はまったく見えなくなっていて、トンを呼び妻のところへ連れて行ってほしいと頼むのだ。張にいいように利用されている自分に憤慨したホン支持されてきた形態を投げつける場面もある。

そして、救急車に乗せられたホンの妻にホンが駆けつける。ここで私は自然と涙が出て、ああ、これでエンディングかなと思いきや、なんと今度はホンと妻のエピソードが語られる。実はホンと妻は裏社会の仕事をしていたが、妻は妊娠。組織にはむかったホンが組織から狙われたために妻をつれて逃走。逃げてる途中で妻が破水し、狂ったように走りながら追突したのが冒頭のトンが追っていた犯人の車だった。そこでホンは目をやられてしまい、妻はいまの受胎になったのである。さらにぶつけられた犯人は身近にあった車に乗るのだが、実はその車はアンと娘イが乗っていて、娘を残して車を離れたすきにのっとられたのである。犯人はイをトランクに押し込んで逃げようとするが・・と冒頭のシーンにつながるというサービス満点の設定に驚いてしまう。

非常にスピード感あふれる演出に手に汗握るのであるが、からみ合わされた脚本がただひたすら観客を楽しませるために展開する。まさしく香港映画ならではの面白さを満喫できるのです。書ききれないほどにまだまだ細かなエピソードが盛り込まれていて、本当に飽きの来ないストーリーには脱帽です。

ラストは助かったリンがアンと抱き合ってエンディング。とまぁ、みゅおな理屈やメッセージもないひたすらに面白い映画でした。大満足です。