くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「HOME 愛しの座敷わらし」「裏切りのサーカス」

愛しの座敷わらし

「HOME 愛しの座敷わらし」
カメラワークがとってもやさしい。ゆっくりゆっくり高橋家の姿を捉えていきます。しかも、山間の村の田園風景などのショットが抜群に美しい。まるで写真家がワンショットでとらえた季節の一ページのごとくはっとするような画面がさりげなくちりばめられているのです。

物語はシンプルですが、ほのぼのと引き込まれて癒されてしまう。おそらく、金子成人の脚本と「相棒」を離れて久々の演出である和泉聖治の演出のなせる技ではないかと思います。

真っ青な牧草地に牛が放牧されている。一台のワゴン車がその山間の村にやってくるところから映画が始まる。春の緑一色に彩られたのどかな村にやってきたのは、東京の食品会社に勤める高橋家の人々。盛岡支社に左遷させられた父についてきたのは東京を離れたくない都会ッ子の長女、小学生の長男、優しい妻、年老いた母の五人。

都会と比べものにならないスローライフにいきなり放り込まれたこの家族が、暖かい本当の家庭を思い出して、また東京へ戻るまでの数ヶ月を描いている。田植えのシーズンにやってきた家族は秋の収穫の黄金色の田圃の中を帰っていくという、家族の実りの映画であるかと思います。

100年以上になる古民家にやってきた高橋家はそこで何か違う雰囲気を感じる。幼い子供の姿が鏡に映ったり、音だけがして姿が見えなかったりという不思議な雰囲気の画面が続く。そして、近所の家で座敷わらしの存在を知り、長男は家の裏のほこらでその子供と出会う。年老いた母はその子供をかつて戦時中に死んだ弟のろくチャンだと親しげに呼びかける。

座敷わらしを表だってストーリーに絡ませず、さりげなく家族を見つめているかのような演出がとっても優しくて、ほんのりとした気持ちで画面に食い入ってしまいます。

仕事が旨くいきはじめ、田舎での生活も慣れ、子供たちも学校にすっかりとけ込んだ頃、父が再び東京へ呼び戻される。一人でいってもいいという父に、妻は一緒にいこうとみんなに語り、再び東京へ戻るシーンで映画が終わる。

稲が萌えるのにあわせて高橋家の家族がもう一度実りを迎える。カメラは長回しゆっくりとそんな家族の姿をとらえていく。年老いた母に痴呆の兆しが見えたりし、思わず涙ぐむ父の姿が印象的。都会で忘れた何かを取り戻すというような仰々しいメッセージなど前面に押し出してこずにさりげない画面づくりが実に作品を優しさで包んでいるように思います。

東京へ戻り家族でファミレスにはいると、座敷わらしも一緒についてきている(らしい)エンディングはある意味ありきたりなのだが、全体のストーリーの終演として実に自然なのである。派手さは全くないものの、どこか心にのろく逸品だった気がします。

裏切りのサーカス
「ぼくのエリ 200歳の少女」のトーマス・アルフレッドソン監督作で、期待の一本でした。なんと大阪では大阪ステーションシネマのみ公開で本日は満席完売という状態。いったいいかほどの作品だろうと息をのんで見に行きましたが、正直、体調が万全の時に見た方がよかった。

緻密すぎるストーリー展開と、謎が次第に明らかになっていくあたりの畳みかけるような演出は重厚すぎてしんどい。派手なアクションシーンがなく、ひたすら主人公であるジョージが彼の右腕であるピーターとともに英国情報部”サーカス”に長年潜んでいるソ連の二重スパイ”もぐら”を突き止めていく。

時にジョージのアップを繰り返し、ロングで引いたシーンと組合わさって独特の緊張感が終始繰り返されていく。次々と登場する人物に語りかけていくストーリー展開が、少しずつ核心に迫る緊迫感に2時間あまりの時間はかなりの体力が必要でした。正直、一時、人物が混乱してしまいました。

物語は”サーカス”のリーダー、コントロールジョン・ハート)が一人の男ジム(マーク・ブリドー)にハンガリーへ行くように指示を出す。長年、組織に潜む”もぐら”の正体を暴くための彼の独自作戦だった。

ところが、ハンガリーでジムは撃たれてしまう。冒頭のこのファーストシーンで一気にこの作品に緊張感が走る。
やがて、この責任をとってコントロールは辞任。同時にジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマン)も退任させる。

しかし、英国政府はジョージに”もぐら”を突き止めるように極秘指令を出すのである。ジョージは片腕にピーター・ギラムを選び彼とともに真実を暴くべく行動を開始する。

張り巡らされた伏線、めくるめくような人物関係など、ハードなスパイ映画独特のストーリーが展開していく。そして明らかになるクライマックス。

助け出されたジョージは暴かれた”もぐら”をショットガンで撃ち殺してエンディングとなる。”もぐら”であったビルーヘイドン(コリン・ファース)がジョージに問いつめられ「右側はあまりにも汚れてしまった」と告げる下りのドラマは圧巻である。

歌声と音楽が流れる中、”サーカス”のリーダーとしていすに座るジョージのアップで映画は幕を閉じる。感無量。これこそ超一級品のサスペンスである。

ただ、ここまで作り込まれた作品なので、完全に理解したとはいいがたく、もう一回見直してみたい気がします。