くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』『夫婦善哉」

王朝の陰謀

「王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件」
香港映画というのは一種独特の地位を確立した感じでとっても好きです。今回はひさしぶりに監督復帰したツイ・ハーク作品を見てきました。

得意のワイヤーアクションと今時のCGをふんだんに使った壮大なスペクタクルアクション映画。そこには芸術性とかいうよりもまず観客を楽しませるだけに終始した生粋の娯楽映画がありました。

時は則天武后が皇帝の地位に即位しようとする寸前。その権力を見せつける意味もあって、天高くそびえ立つ巨大な通天仏が今にも完成しようとしている。ローマ帝国から視察にきた皇帝を案内して棟内へはいった役人の一人が突然体が燃えだして死んでしまう。この事件を解決するために呼ばれたのが、かつて則天武后を戒めて牢につながれているディー。彼は鞭の使い手で則天武后の側近の美剣士チンアルとペイとともに謎を解いていく。

サモ・ハンならではの派手なアクションシーン演出が次々と展開し、襲い来る謎の敵に命をねらわれるディーたち。やがて人体発火は発火虫と呼ばれる虫が原因と判明。日の光を浴びると燃えてしまうことが判明する。その仕掛けを組んだのが実はかつてのディーの知人シャトーであることが最後に判明しする。目的は則天武后の殺害。通天仏を破壊し即位式の建物へ倒壊させて殺そうという計画。ある意味かなり雑な計画ではあるし、それほど謎解きのおもしろさも見えてこないけれど、何度も登場する刺客との格闘シーンがとにかく楽しい。

壮大な通天仏をとらえる景色のシーンはかなりちゃちに見えなくもありませんが、それでもファンタジー色あふれる作品のムードを盛り上げるには十分です。

地下に隠れている謎解きのロンのキャラクターが今一つ引き立ってこなかったり、チンアルとディーの淡い恋物語も今一つなのですが、まぁ、気楽な娯楽映画なのでこの程度で満足しましょう。

結局、事件は解決したものの虫の毒に犯され、地下に潜らざるを得なくなったディーのショットで映画が終わる。
もう少し、見応えのある物語だと思いましたが、期待が大きすぎたといえばそれまで。でも楽しい二時間でした。

ところで、発火虫というのは別の何かの映画でもでてきたような気がしますが、覚えていません。ご存じの方がいたら教えてほしいです。

夫婦善哉
30数年ぶりにスクリーンで見直しましたが、さすがにすばらしい。豊田四郎監督の画面づくりの美しさは今更いうまでもないのですが、それが実にさりげなく物語に生かされていることが改めてわかりました。そして森繁久彌の並外れた存在感、絶妙の演技力にさらに驚かされてしまいました。出来に悪い放蕩息子にもかかわらず嫌みがなくてつい好きになってしまう魅力ある人物として演じている。この微妙なバランスが見事。

曾根崎新地の芸者蝶子と駆け落ちをした柳吉のシーンから映画が始まります。停留所で柳吉を待つときに蝶子の友達と会う場面の影のシーンはさすが豊田四郎とうなってしまう。
叙情あふれる画面づくりの美しさに引き込まれながら蝶子と柳吉のテンポのいいやりとりに笑いを呼び起こされ、軽快に進んでいく物語にどんどん引き込まれてしまう。

俯瞰でとらえる法善寺横町の美しい屋根瓦のシーン、自由軒のカレー屋さんでの繰り返されるシーン。どれもこれもが古き大阪の風情が見事にスクリーンに描写される。

真正面に正視した画面が中心ですが、ワンシーンだけ斜めの構図がとられる。船場の店の跡を継いだ妹の婿京一に冷たくされ、柳吉が店の中で管を巻くときのシーンである。滅多に使わない斜めの構図を豊田監督はこのシーンに限って使用している。このあと、物語は急転回していってクライマックスへと向かっていく。

ラストシーンはご存じ雪の降る法善寺横町夫婦善哉というメニューのある茶屋で二人が善哉を食べ、雪の降る路地へでて、柳吉の名せりふがでる。情緒あふれる見事なラストシーンにこの作品の完成度の高さを改めて認識させられる。これぞ名作。30年以上たって見直してもやはりいい映画は良い映画だった。

「新・夫婦善哉
柳吉と蝶子の7年後を描いたいわゆる続編的な物語。

柳吉は相変わらず女遊びに興じ、一方で養蜂の仕事に興味を持って、例によって夢を追い続けるという展開だが、別の女お文ができて東京へ行く柳吉の物語と蝶子の物語が二本で描かれ、ややバランスが散漫になっている。残念ながら、前作とは打って変わって完成度が落ちているのが明らかです。

豊田四郎監督ですが、いつものような叙情あふれる美しいシーンがみられない。もちろん、法善寺横町のシーンは前作同様の俯瞰でとらえるが、今昨は前作のスタンダードから打って変わっての東宝スコープの横長の画面になっている。もちろん、画面サイズが変わったからといって豊田四郎の手腕に代わりはないはずだが、残念ながら画面の美しさにおいても前作に劣っている。

お文を嫌いながらも柳吉への思いを断ち切れない蝶子はなけなしの貯金を柳吉に与える。しかし、その金を持ってお文は姿を消す。一方柳吉の娘みつ子が結婚、船場の家もなくなり、かつての維康家も店も法人になってしまいその名もなくなってしまう。

なにもかもなくなった柳吉はひとり養蜂のために房州屁いく。その後を追って蝶子がやってくるが海岸での出会いのシーンも妙にしつこいし、ラストの蝶子が柳吉に告げる前作の逆バージョンのせりふでエンディングもちょっといただけない。

豊田四郎監督作品として期待していたが、ちょっと期待はずれの一本でした