くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想『駅前旅館」「喜劇 駅前団地」「赤坂の姉妹 夜の肌」

駅前旅館

「駅前旅館」
井伏鱒二の原作を豊田四郎が演出をしたシリーズ第一弾。
脚本が八住利雄森繁久彌淡島千景豊田四郎ワールドの世界である。

上野の駅前の旅館を舞台に繰り広げられるどたばた喜劇ですが、出演者がフランキー堺伴淳三郎なども含め個性派俳優ぞろいでお互いがそれぞれを打ち消すような形になってしまって、作品全体としてはちょっとまとまりがない。

とはいっても、1958年当時、古い番頭である主人公が終盤で首になったり、団体旅行が次々と駅前の旅館になだれ込んでいく様をみると、日本が合理化の波に包まれていく様がさりげなく描かれているのがみられ、時代を感じさせる一本だなぁと感慨に耽ってしまう。

芸映画で見せる豊田四郎らしい美的な画面は全く見られずに、どちらかというと俳優たちの個性に任せた物語演出になっています。それが物足りないといわれれば豊田四郎監督ファンとしてはそうなのですが、日本映画最後の黄金時代を飾っていた職人監督としての豊田四郎監督をみればそれはそれで十分楽しめる一本だった気がします。

「喜劇駅前団地」
一作目のヒットにより作られたシリーズ第二弾。監督は久松静児である。

公団の団地の建設で開発が進む郊外の農村を舞台に描かれるたわいのないどたばた喜劇であるが、「駅前旅館」と違って、こちらの方がまとまりがあって一本の筋がきっちりと描かれていく。この手の作品は豊田四郎監督より久松静児監督の方が得意なのでしょうか。

主演は例によって森繁久彌が古くからの病院の院長役で、土地を買って東京からでてくる女医役に淡島千景が扮する。あとは、伴淳三郎フランキー堺などこのシリーズの常連が脇を固めるが、若き日の坂本九などが出演しているのも時代色があって楽しい。

耕運機が庭においてある地元の地主や開発に乗じてもうけようとする土地開発業者の姿などを丁寧に描きながら、とんとんと軽いタッチの物語が展開する様は古き良き映画黄金気の息吹そのまま。楽しい一本でした。

ただ、さすがにフィルムの劣化で色が完全に飛んでいたのが残念。


「赤坂の姉妹より 夜の肌」
川島雄三監督作品、本日の一番の期待作です。
さすがに人を食ったような川島雄三の演出を堪能できます。女であることを武器に赤坂でのしあがっていく主人公夏生の生き方を中心に次女秋江、三女冬子の物語が語られていく。一見、サスペンスフルな女の物語であるかのようだが、川島監督にかかるとじつにテンポよく、しかもせせら笑っているかのような画面になるから不思議ですね。

タイトルが終わると、ナレーションで、赤坂が夜の国会議事堂のごとく政治家や権力者のたまり場になり繁栄してきたいきさつが語られる。それも、どこか軽いタッチのナレーションであるのが実に小気味良い。

何台もの車が議事堂を飛び出し、その後を新聞記者が追いかけるファーストシーン。意味ありげな夏生、秋江の登場シーン。田舎からでてきたみるからにいも姉ちゃん風の冬子のショット。こうして始まるこの作品、どこかいつものような川島雄三の才人たるゆえんのようなテンポが見えてこない。

三人の姉妹の生き方が、一歩身を引いたような視点で次々と展開していくが、話のテンポの割に画面のテンポが今一つ乗り切れないように思いながらも物語を追っていく。これは川島雄三映画としてはちょっとレベルが低いかな?と思いながらも不思議と画面に食い下がってしまうのが川島雄三映画のおもしろさでもある。

途中、インタビューするようなマイクのシーンが飛び込んだりする演出は完全にこういう赤坂という独特の世界を小馬鹿にしているとしか思えない。まるで川島雄三が、金と女と権力に奔走する人々をあざ笑うかのごとくである。

男にだまされては、ついていこうとする次女秋江。若者たちの思想に影響され、理解しているのかどうかもわからずに中平という助教授の考え方に惚れ込んでいく三女冬子。なんとか三姉妹を幸せにするべく女を武器にのし上がりながらもどこか自分が間違っていると気づいている主人公夏生。それぞれの人物が今の自分の生き方に納得し切れていないのに突っ走っている姿をただただ冷静な視点で川島監督はカメラを向けているようである。

ラストシーン、夏生の恩人でもある料理屋の主人の店も買い取り、総理大臣さえもその開店祝いにやってくる店を持つまでに至りながらも、次女は男を追ってブラジルへ旅立ち、スト闘争でけがをした冬子は布団の横たわりながら天井を見つめるシーンでエンディングになる。ここまでのどろどろした物語が実にあっけなく幕を下ろすこの映画のエンディングはさすがに川島雄三でとうなってしまいます。

終盤、彼女がロシア語でいう「一生懸命に生きてきた。もし、誰かほかにもっと上手にいきることができるならやってみるが良い」(ちょっと記憶違いがあるかも)というせりふにこの映画のメッセージがまとめられているようである。

シリアスで重い物語も実に素っ気なく笑い飛ばすような迫力こそが川島雄三映画の醍醐味ですが、いつものような調子の良い映像のテンポがこの作品には見受けられなかった。ファーストシーンのスピード感あふれる導入部はおもしろかったけれど、その後が続かなかった気がします。