くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「想い出の夏休み」「白い鳩」

想い出の夏休み

「想い出の夏休み」
とっても叙事詩的な音楽と草原、水辺、花々などの詩的な映像を背景に一夏の少年少女たちの甘酸っぱい青春の一ページを描いた映像詩のような作品でした。

物語というほどのものはなく、主人公になるミーチャ、恋いこがれるレーナ、ミーチャに思いを寄せるレーナ、ミーチャと張り合うグレーブなどの少年少女たちの行動を通じて、誰もが経験した懐かしい思い出をつづっていきます。

野花のさりげない色彩とむせるような草の香り、透き通るような水に映る景色など、素朴すぎる中に輝くようなみずみずしい世界が望遠カメラを中心にしたカメラワークでとらえられる映像はとにかく美しいの一言につきます。

それぞれの少年少女たちのどこか危うい視線、戸惑いの心、これから向かうことへの不安を丁寧かつまっすぐにとらえ、その初々しさがたまらなく胸に迫ってくる。

淡々と流れる危うげな一夏の時間が最後にみんなで凧を揚げ、それを見つめる視線でエンディングを迎える。このひとときをみんな決して忘れないようにしよう。ミーチャが語るせりふがこの映画の魅力を見事に語っているように思えます。

すてきな映像の一遍。とってもいい映画でした。

「白い鳩」
「想い出の夏休み」同様セルゲイ・ソビヨフ監督作品で、この監督の個性なのか画面が実に詩情豊かで美しい。はっとするような幻想的なシーンをふんだんに取り入れ、全体がハイキーの光の演出がまぶしいほどに美しい。

導入部で窓に射し込む光を逆行に鳩を見るワーニャのシーンなど絶品。カメラを担当したのが、この手の映像が得意なユーリ・クリメンコという人らしいが私の乏しい映画の知識では全く未知の人である。

最初、突然宇宙に打ち上げられるロケットのシーンに始まって度肝を抜かれる。宇宙飛行士になった主人公ワーニャがその少年時代を回想して始まるこの物語。なぜ宇宙飛行士?と想わなくもないが、これもまたソ連の当時の国情でもあるのかもしれない。

鳩に大人や子供が血眼になるという設定が理解できず、物語に入りづらかったが、要するに戦争が終わり平和になった田舎の村で人々の生活の楽しみの一つに始まった鳩の収集が次第に大人の利権が絡み窃盗団まがいのものまででてきたということらしい。

前半部分は主人公ワーニャの父の軍事教官としての生活、画家であった時代にそのモデルをしていたクセーニヤが今や夫に捨てられて貧しい生活をしている様子。そのクセーニヤがなけなしの毛皮を売ったものの闇売買の嫌疑で悲嘆して死んでしまうあたりの物語が描かれる。

ワーニャは、ある日命がけで真っ白な鳩を手に入れる。夢を見るようなシーンで大空を舞う鳩のシーン、さらに自分が飼っている自慢のまだら鳩と一緒に舞うシーンを空想するショットが実に詩的で美しい。

ワーニャの手に入れた鳩を大人たちがねらい、あえなく盗まれる。その鳩を巡ってあちこちを探し回るワーニャの物語が後半部分になります。

その鳩を捕った男たちはいわゆる犯罪集団でとてもワーニャの手に負える人たちではなく、そんなところから鳩を取り戻したワーニャが建物の屋上から白い鳩を空にはなってしまう。大空に舞う鳩のシーンが実に解放感満天で人間同士のぎくしゃくしたしがらみが一気に説き放たれるイメージを見事に描き出す。

時折、シュールなと思えるほどの映像も駆使され、構図のみでなく線路をゆっくりと移動するような撮影も駆使、一種独特の映像派と呼べる演出に引き込まれる魅力がある作品で、ヴェネチア映画祭特別賞受賞の理由が納得できる秀作でした。