くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「刑事ベラミー」

刑事ベラミー

クロード・シャブロル監督の遺作である。最後までこのレベルの映画が撮れたというのは才能というほかない。”フランスのヒッチコック”と呼ばれるのもうなずけるとってもフランス的なしゃれたミステリーだった気がします。

ゆっくりとカメラがどこかの墓地を縫うように移動し、やがてがけ下に落ちた黒こげの車とそのそばで運転した姿のままで真っ黒になった人間の死体を映してオープニング。

バカンスで休暇中の主人公ベラミー警視と妻。庭に一人の謎の男が座りじっと見ている。妻が窓から覗くとあちらものぞいている。いったいこの男は誰?と思っているとチャイムが鳴り妻が応対に。ベラミー警視に会いたいというが妻は拒否し、携帯の番号を聞く。覚える気もない妻はメモも取らないがしっかりと記憶していて夫に伝える。この下りが何とも楽しい。

どこか色気のあるこの妻にことあるごとににじりよるベラミー警視だが、近づいてきた男に興味があって電話をする。しかし不在で、自分の電話番号を告げると夜中にかかってきて今からきてほしいという。いってみるとその男は一人の男を殺したという。平行してエミール・ルレの保険金詐欺のニュース。どうやらこの事件と絡んでいるようで謎の男ノエルとこの男が殺したというエミールという男とうり二つなのがまたミステリー。

この男ノエルには妻がいるが、愛人ナディアもいる。一方そのナディアには別の男。これがラスト近くでベラミー警視と同業の警視であると判明。しかもその警視は一度も画面にでていない。これもまたミステリー。

一方ベラミー警視の弟ジャックがやってくるがこのジャックが胡散臭い。しかし、ベラミー警視はかばってやる。これも終盤、子供の頃この弟を殺しかけたという告白で納得。しかし、事件の捜査をするうちに男と女の話が絡んできて、ベラミー警視の妻と弟ジャックとのことまで勘ぐったりするシーンまででてくる。

やがて、謎の男ノエルが殺した男には愛人がいて、殺した男となっている男はその謎の男本人で、保険金を搾取するためのようで、告訴されるが、弁護に付いた弁護士は殺した男の愛人の幼なじみで、裁判の席で歌を歌って無罪を勝ち取る。

あれよあれよと物語が絡んできて、ベラミー警視は結局、謎の男ノエル(エミール)と妻にだまされたのではないかと思いながら家に帰るとジャックは車で出かけたという。そして、事故に遭い死んだという電話が入る。

三者の事件を追いながら複雑に絡んでいく人物関係がいつの間にか身近の出来事に収まり、カメラが冒頭のシーンと同じアングルでゆっくりと事故を起こしたジャックの車が真っ黒になったショットでエンディング。

めくるめく物語の絡み合いと人物の交差、それがいつの間にかミステリーとなりそして自分の周りに波及してくるおもしろさは絶品。終始、淡々としたリズムで物語が展開するのにその背後に見え隠れする謎また謎がとってもしゃれていて、さすがに傑作と呼べる一本立ったように思います。アメリカ映画や日本映画にはない独特の雰囲気を持った作品で、さすがにこれは才能のなせる技だとうなる一本でした。