くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ある秘密」

ある秘密

複雑に組み立てられた時間枠の構成で描くドラマでした。最初は主人公の少年フランソワのやや異常な心の映し出すシュールな世界かと思ってみていたら、なんと中盤からナチスによって迫害された家族の物語へと進んでいく。

映画が始まるとなにやら赤い模様の入った鏡(最初は透き通ったカーテンかと思えた)に一人の少年フランソワが近づいてくる。そして、「フランソワ」と呼ぶ声に外にでると美しい母タニアが飛び込みをするのでプールに入って見なさいと優しく促す。このフランソワには幻想のようにもう一人の少年(本人は兄としている)の姿が時々見えていて、フランソワと違って完璧に飛び込みや吊り輪をこなす。時は1955年。

フランソワには時々発作のように悪夢をみたり、いないはずの兄の姿を具現化するという行動をとる。その行動に戸惑う父マキシム。

時が変わり1985年。大人になったフランソワ。父が犬を解きはなってしまい、事故で犬が死んだという知らせ。父も3時間でかけたまま行方不明だという。
この作品、現代(1985年)をモノクロで過去をカラーで描いていくから、この出だしは実に分かりやすい。

前半は現代のフランソワのシーンと少年時代のシーンを交互に描き、かつ幻想と現実を取り混ぜた映像も見られるので、カラーとモノクロの繰り返しが無ければ混乱してしまうところである。しかも、父であるマキシムは現代と過去に登場し、その接点は後半で明らかになるまで明かされない。そしてタニアがフランソワを生むシーンを挿入し、そのあとの展開に関連づけてくる。

フランソワが、幻想だと思っていた兄が実在する証拠を屋根裏で見つけ(馬のぬいぐるみ)物語が中盤にはいってくると、一気にマキシムの元妻アンナが出産するシーン。子供の名前はシモン。この家族はユダヤ人で、時は第二次大戦下、ナチスがフランスを占領している時代へととぶ。こうしてこの作品の大部分がこのマキシムの家族の物語となる。このあたりの演出は前半のシュールでテクニカルな演出ではなく正当に順番につづっていく。ある意味、一貫性がないといえばそうかもしれない演出である。

アンナたちは友人とフランスをでるべく身分証明を取得し、後少しというところでたまたま官憲に出会いほかの家族は偽の証明書で逃れたのにアンナはなにを思ったか本物を出し、シモンと共に収容所へ送られる。残りの家族は夫たちが待つ村へやってくるがそこで一人の美しい女性タニアがアンナの夫と愛し合うようになり、時は流れフランソワが生まれる。

同じジャンプカット(タニアの出産シーンとアンナの出産シーン)を繰り返すことで物語の転換点を作り、フランソワが幼い頃に見ていた幻の兄はシモンであることが明らかになる終盤は、確かに真相が解きほぐされる効果はあるものの、それほどの衝撃はない。大人になったフランソワはシモンとアンナがいつどこで死んだかを突き止め、家出した父に出会ってそのことを告げる。マキシムはアンナが不明のままタニアと愛をはぐくんでいたことの罪悪感から解放される。

フランソワが娘ローズと草だらけの墓地にやってくる。そこは犬の名前か人の名前かわからない墓碑が並ぶ。順番にその墓碑に刻まれた名前が背後に流れる。どうやら収容所で死んだユダヤ人の名前らしいことがわかる。

結局、ナチスによる迫害をテーマにした家族の物語とうことなのだ。当初、なぞめいた心理ドラマかと思って見ていたのでちょっと狐に摘まれたエンディングに戸惑ったが、非常に複雑に組み立てられたストーリー構成と映像演出のうまさが秀でた一本で、なによりタニアを演じたセシル・ドゥ・フランスが抜群に魅力的だったことが印象に残る作品でした。