くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「オープニング・ナイト」

オープニング・ナイト

この映画は本当によかった。今回のジョン・カサヴェテス作品特集をみて彼の作品はほとんどが内面に潜む精神的なテーマに関わったものが非常に多かった。本日の「オープニング・ナイト」も一人の女優が公演の初日に向かっている中、一人の若いファンが交通事故で目の前で死んだことから精神的に不安定になる姿を中心に描かれている。

いきなり劇中劇でこの物語の中心になる舞台劇「第二の女」のメインシーンが映される。ここで本来の舞台の演技が紹介されタイトル。

本日の公演を終えた女優マートル(ジーナ・ローランズ)が楽屋口をでてくる。ファンにもみくちゃにされる中一人の若い女性が「アイラブユー」を繰り返しながら執拗にマートルに絡んでくる。激しい雨の中車に乗り込んだマートルを窓際に叫ぶ女性ナンシー。何とか振り切って車を出した直後、その女性は反対車線をきた車にはねられてしまう。しかし、関わりをおそれたマートルの同僚たちはそのまま車を走らせる。

ところが、その女性ナンシーのことが気になって仕方のないマートルは次第に不安定な精神状態に陥っていく。物語の展開はこうだが、舞台でマートルが殴られるシーンがあり、妙にそのシーンを嫌うマートルの姿、さらに自分が老いていくことへのこだわりの台詞などが絡んでくると、ナンシーはいわばマートルの若き日の幻影ではないかと思えてくる。

時折、鏡に映るナンシーの幻影が見えたり、自分に危害を加えるかのように寄り添ってくる姿も見えたりと、一方で近づく次の公演の初日への不安も重なって舞台の役柄と女優としての年齢へのこだわりも重なって揺れ動く心の中でもがくマートルの姿がどんどんエスカレートしていくのだ。

そして、初日の日がやってくる。個人的に除霊を頼んだ女性の部屋で幻影となっておそってきたナンシーを殴り殺したマートルはそのまま姿をくらます。初演の時間が迫る。そして、遅れて現れたマートルは泥酔い状態。そんな中、製作者や演出のマニー、あるいは相手役のモーリス等は開演を決意、必死で彼女を支えながら舞台を進めていく。そして最後の見せ場、モーリスとマートルの絡みのシーンで、モーリスは本来の展開にないアドリブを連発し見事にマートルをフォロー、拍手喝采の中舞台は終わるのである。

終演後、初演を終えたスタッフ、キャストたちの中でほほえむマートルのショットでエンディング。

クライマックス、極限状態になったマートルが幻影のナンシーを殴り殺し、若さへのこだわりを吹っ切る。そしてストーリーは最高潮に達した後はマートルの周りの人々の応援で一気にラストシーンへなだれ込んでいく。凡作ならここは胸を打つ感動の演出がなされるのだろうが、ジョン・カサヴェテスはちょっと舞台に立っては裏に入って倒れてしまうマートルの姿を繰り返し描いて、平凡な感動に観客を連れてはいかない。そして最後の最後、ジョン・カサヴェテス自身の演じるモーリスの独り舞台で一気に大団円に持っていく。これはみごとである。

この作品でもカサヴェテスらしいクローズアップが多用され、時に即興のようなカメラショットが繰り返される。そこに生まれる映像のリズムは緊張感だけではなく観客とスクリーンの世界を繋ぐ一体感のリズムである。この独特の映像表現こそがカサヴェテスの才能のなせる技ではないかと思う。すばらしい一本でした。