くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「生きてゐる孫六」

生きている孫六

関の孫六という刀といえば名刀の誉れ高い一品。その刀を中心に古い因習にとらわれた田舎町の人々のほほえましくも人間味あふれる人情喜劇です。

製作されたのが1943年と第二次大戦まっただ中なので、冒頭で兵士の教官が延々と日本国の軍人としてどうあるべきかを唱える場面やクライマックスで旧家の息子が今まで鍬を入れることを許されなかった広大な土地を耕すことでいかに日本国のためになるかを朗々と語るシーンなど時代色が伺える。

故に、ある意味珍品といえる作品に仕上がっているが、その根底に木下恵介らしい古きものにとらわれず常に前向きに未来を見据えよというメッセージがしっかりと息づいているから見事なものである。ただ、全盛期の抒情あふれる美しいシーンを撮る余裕はなかったのか画面自体は際だったものはなかった気がします。

ススキが原をバックにタイトルが終わると三方が原の合戦のシーン。馬が行き交い、侍が斬りあう、として一戦が終わると時は移って第二次大戦真っ最中の軍事訓練のシーンに変わる。

ここから教官が関の孫六を持っているという話に地元の鍛冶屋の主人が異議を唱え、そこへ父の形見の関の孫六を売ってしまった東京の医師がこの地の旧家の家宝を譲ってもらいにやってくる。そこへ三方が原に鍬を入れてはならないという因習にとらわれ神経衰弱で胸を患ったつもりの旧kの息子や鍛冶屋の娘と旧家の雇い人の息子との恋が絡んで次第に群衆喜劇の様相を帯びてくる。

最初は視点が定まらない展開と戦意高揚の意図を無理矢理入れた演出がやや散漫な展開であったが終盤に至って何とか収拾がついてきてなにもかもめでたしめでたしとエンディングを迎える。

国の検閲を意識している風がはっきりと見える映画ですがこれもまた木下恵介の一本であり、歴史の流れの中に巻き込まれながらの作品として必見の一本ではあると思います。名だたる木下監督の名作とはまた違う味のある映画ですが、こういう作品が生まれていた古き日本の姿をかいま見る上でも貴重なひとときだった気がします。