くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「こうのとり、たちずさんで」「霧の中の風景」

こうのとり、たちずさんで

こうのとり、たちずさんで
公開当時見たのだが、ちょっと記憶が薄れているので再度見直しました。

お世辞にも娯楽映画とはいえない。延々とした流麗なカメラワークと長回しで描く圧倒的な映像表現の美しさに目を奪われるものの、スローテンポで語られていく物語はじつにしんどい。しかし、それでも独特の見応えがあるのはテオ・アンゲロプス監督の個性でありその魅力であると思う。

一筋の川で国境を遮られた町で一人の男アレクサンドロスがその地域の難民の姿を撮影にやってくる。そこで偶然政治亡命者を発見、接近を試みる。失踪前の妻を捜し求め引き会わせるも妻は夫ではないと答える。一方その大物政治家には娘がいて国境の向こうにすむフィアンセと近々結婚式を挙げる。

クライマックスは川を挟んでの二人の結婚式である。川の流れの音だけが画面を覆う中で粛々と儀式が行われる。夜の町で父と娘がダンスをする。そして翌朝1999年12月31日、アレクサンドロスの前でまっ黄色な服装の電気技師が電柱を上り電線を引いていく。背後に寒々とした雪景色が広がる。圧巻の映像美である。

国境という人間が勝手に作った境界で遮られる若い二人。痛烈な風刺を潜めた映像が実に辛辣でさえある。それでも電線を引いて人と人の連絡を作り出そうとする人間の姿がどこかしら不思議な滑稽さにとらわれる。

国境を挟んで縦の彼方に隣国をとらえ、そことの間にはどうしようもない川が横たわる。橋が画面の奥に遠ざかるように奥行きのある構図で描かれ、国境の彼方が非常に遠くに見える。一方真横にとらえる画面で電線が引かれていくというつながりが一方で描かれる。この縦と横の映像演出は見事である。

今にも国境を越えようとする冒頭の国境警備の大佐の片足立ちのシーンと終盤でアレクサンドロスが同様に片足でたつ。題名の由来であるが、この緊迫感あふれる終盤のシーンが実に見事だ。

二時間半あまりはかなりしんどいが、一級品の映像スタイルに酔いしれるのもまた映画ファンとしての充実したひとときだった気がします。

霧の中の風景
一種のファンタジーでもあるが、テオ・アンゲロプスの流麗な長回しのカメラワークが最大限の効果を生んだ秀作でした。しかも、延々とカメラが回るシーンがあるのですが、通常のペースのカットも頻繁に挿入されていくので映像のリズムからのうけるいつものしんどさがない。絶妙にバランスのとれたシーンとシーンの連続が最後までこのファンタジックで切ない二人の幼い姉弟の物語を丁寧に語ってくれるのがとっても魅力的なのです。

映画が始まると姉ヴーラと幼い弟アレクサンドロスが駅に走り込んでくる。「今夜もきたのかい、どこへ行きたいんだ」という駅の男の言葉をよそに今にも列車に乗ろうとするが二人の前でドアは閉じられる。そして、タイトル。

ドイツに父がいると信じるこの二人は今度こそ今度こそと二人だけで列車に乗ろうとしている。そして今夜、とうとう二人は列車に飛び乗って物語がはじまる。寝室で眠る二人の部屋のドアの隙間の光に母が近づくショットが実に童話のように寓話的なカットである。

お金のない二人は当然、途中でおろされて警察へ。ところが、雪が降ってきたというので署員がみんな外にでて、空を見上げてストップモーション。そんなファンタジックな景色の中を二人は飛び出してスローモーションで脱出。なんともいえない夢のような画面に驚かされる。

途中で旅役者のバスを運転する若者に拾われて旅をしたり、トラックの運転手に乗せてもらったりと続けるうちに初恋を知り、大人に裏切られ、人の親切な心にふれたりする。閉店後の食堂に飛び込んでおなかすいたというアレクサンドロスに瓶を片づけたらサンドイッチをやるという主人の行動。店にバイオリンを持って流しにやってくる人などどこか現実離れしたシーンが続く。

若者が拾った真っ白な霧が写ったフィルムをもらうアレクサンドロス。このフィルムがラストシーンに生きてくるのである。

若者に密かな恋心を持つヴーラだが、実はこの若者はホモセクシャルで衝撃の中失恋する下りやトラックの運転手にレイプされるシーンなど残酷なショットも交える。夜の町、瀕死の馬が車にひきづられてくる場面で泣きじゃくるアレクサンドロス。命というものに直面するこのシーンもちょっとシュールだが胸に迫ってきます。

若者と別れ、二人だけで最後のドイツ国境へ向かう。何とかお金を手に入れるために駅で待つ兵士にお金をくださいと迫るヴーラ。暗に体を与えようとする仕草を見せるがその兵士はお金だけをおいて姿を消す。男性に対する疑念が一瞬で晴れ、信じることを思い出させてくれる見事なシーンである。

ドイツ国境へついた二人は夜に紛れてボートで国境の川を渡りかけるが、「止まれ」の怒声と銃撃の音。そして真っ白な霧の中、アレクサンドロスとヴーラは彼方に見える一本の木の袂へたどり着く。二人はおそらく死んだのだろう。何とも切ないラストシーンである。

思い返すとおとぎ話のようなひとときで、二時間あまりの中にアレクサンドロスとヴーラは人生のすべてを体験する。死までも経験して終わるあまりにも悲しい物語はいつものようなテオ・アンゲロプス監督の描く政治的なメッセージは薄められ、ただ静かに人間の人生というもののはかなさを映像美でつづる形を取っている。ラストシーンまでほとんどアップがなかったアレクサンドロスが最後の最後、霧の中であどけなくも力強く姉ヴーラを導く視線がたまらなく切ない。夢のような一遍でした。