くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「桐島、部活やめるってよ」

桐島、部活やめるってよ

ちょっと不思議な映像感覚で私好みの吉田大八監督の最新作。期待通り、ちょっと風変わりな青春群像劇の秀作でした。大満足の一本。

映画は「金曜日」というテロップから始まり、ある高校のとある金曜日の一日が繰り返し繰り返しオーバーラップしながら語られていきます。
将来を嘱望されているバレー部キャプテンで学園のスター桐島が突然部活をやめたといううわさが広まる。桐島の彼女梨沙のショットから彼女の友人たち、どのクラブにも属さずに桐島の帰りを待ってバスケットボールで遊ぶイケメン三人組、そのうちの一人に想いを寄せる吹奏楽部部長の亜矢、梨沙の友人のかすみに想いを寄せる映画研究部の部長前田、などなどそれぞれのプラトニックな恋や部長としての立場のドラマ、さらにはいまひとつ部活では目立たない部員たちの物語も絡んで、さまざまなカメラの視点でそれぞれのドラマを描いていく。

なんといっても秀逸なのはそのせりふの懲りようである。一つ一つはここで思い出せないけれども、ストレートに単語を並べずにベストな色合いを持たせてひっくり返してみたり、掛け合いの呟きにも味のある演出が施された脚本が実に見事。カメラは一人ひとりを丁寧に捕らえていきながら金曜日から火曜日までの一瞬の青春ドラマを映像として伝えてくる。独特のイメージで作品のムードを生み出していくカメラワークと細やかな演出のリズムがいつのまにか、どこにでもあるような学園の一こまを奥の深いドラマティックな展開で引き込んでいくのはまったくすばらしい。

毎回、負けばかりであるがひたすら自分の叱咤しながら努力をするひたむきな野球部のキャプテンの姿に心を動かされる菊池をはじめ周囲の人々のさりげないしぐさやせりふ、行動が映像となってこの物語をイメージとして形作っていく。原作はあるものの見事に映像として昇華し、リズムを持ち歩き出している。終盤で屋上から飛び降りたかに見えた少年は桐島だったのか?その謎を残し大勢が屋上に集まってくるクライマックス。それまで弱気だった映画部のキャプテン前田がすべてを取りまとめ、大団円へと導いていくクライマックスは圧巻。「告白」以来の映像としての完成した作品に出会いました。とっても良かった。