くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「海の花火」「春の夢」

海の花火

「海の花火」
この作品、びっくりするほどにカメラが美しい。構図の点、ワーキングの点で目を見張るものがある。しかも人々のクローズアップとドキッとするような遠景が織り交ぜられたリズムは全くすばらしい。

ので、これは紛れもなく傑作かと身を乗り出すのだが、いかんせん、物語が一本筋のとおったものが見えないのだ。物語は九州の呼子の村に始まる。船の上の漁師たちのクローズアップから始まってなけなしの金で事業を始めた神谷達親子の物語へと流れていくのだが、そこへ東京から魚住という男がやってくる。

現地の悪徳漁師たちの姿から、新たにやってきた船長たちの抒情豊かな物語へ進み様々な恋物語が語られ始めるのだが、非常に人物が錯綜してきて恋愛物語が入り組んできて、さらになぜか色合い豊かなキャラクターがところ狭しと自分の話を展開していく。そんなややこしい展開の中ですばらしい映像がふんだんに入ってくるのだからもうまとまりがないと呼ばざるを得ない。

船の上の格闘シーンで背後に日輪のように光る月のショットが見えたり、突然不気味な背景で汽車が走り抜けるシーンがあったり、船がゆっくりと進む抒情あふれる見事なシーンがあったり、呼子の村の景色がうつくしく描写されるかと思うと東京のショットがちぐはぐなくらいに的確な構図で捕らえられている。

木下恵介の作品にたまに登場するちょっと暴走したような冒険心あふれる作品の一本なのかもしれない。ラストにいたって、一瞬、いろんな謎が明らかになりかけるが、そういえば船の話があったなと再び神谷達の話に戻る。そしてなぜかめでたしめでたしとなって映画が終わる。?という感じ?そんな映画だったが、映像のすばらしさは特筆すべきものがあったと思う。


「春の夢」
これは傑作だった。全く木下恵介監督のコメディは絶品が多いなぁとつくづく思います。しかも、この作品にも木下恵介流の毒がしっかりと盛り込まれているからすごい。

大きなドアがゆっくり開いたり閉じたりして始まるタイトルに続いて物語はとある製薬会社の社長宅。舞台劇のようなスタイルで軽快に進む登場人物の行動が実にコミカルでテンポがいい。さらに繰り返されるせりふの妙味も絶品で数秒に一度のリズムで笑いが巻き起こる様はまさに天才的。

しかも背後に時折ジェット機の音が被さったり、軽いリズムの音楽が挟まれたり、中盤から終盤にかけてはストの雑踏の音が被さる。

この大邸宅の女中が焼き芋を買うところから物語が始まる。その焼き芋屋のおじいさんを家に引き入れて掃除を手伝わせたところへ主人が帰ってきてあわててかえってもらおうとすると脳溢血で倒れて、動かしてはいけないということで応接に寝かされる焼き芋屋のおじいさん。この導入部が実にファンタジックなのだ。

そしてこの家で次々と恋愛劇やら様々なエピソードが巻き起こり、ありそうでなさそうな絶妙の事件や行動が繰り返されていく。一方でここの社長の会社ではストライキが起こり、その様子が時折挿入されるというのがまさに木下恵介の毒である。さらにこのおじいさんの住んでいるアパートの住人も欲得でおじいさんのところに集まってくるあたりも実に皮肉が効いているというか木下恵介の視点がかいま見られる。

そして、流れるままに展開するアイロニー満載のドラマは終盤一気に解決に流れ、この焼き芋屋のおじいさんは実はこの家の女主人(東山千栄子)のかつての恋人だと判明、それを確認した日にこの女主人が死んでエンディングとなる。

久我美子扮するオールドミスの秘書や画家に恋する岡田茉莉子扮する次女や男遊びの好きな長女、女主人に仕える付き人の女性、いつも本を読んではうろうろと家の中を歩き回り訳の分からん哲学的な言葉を発する川津祐介扮する息子など個性あふれるキャラクターも最高におもしろいし、芸達者故に見事に物語にはまりこんでくるのである。

何度も書きますが木下恵介の映画は叙情的な名作よりもこういうコメディの方が私は好きですね。本当に楽しかった。