くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「善魔」

善魔

人の心の中に存在する善、その善を貫くために必要な魔の存在を問う非常にシリアスなドラマで、三国連太郎がその役名を芸名にしたデビュー作としても有名な一本である。

新聞社を舞台に新人の主人公三国と三国が尊敬する先輩で部長の森雅之扮する中沼がくりひろげる人間の心の奥底に潜む善と魔性の姿を丁寧な画面づくりでテクニカルなショットをほとんど挟まずにカメラが追いかけていきます。

圧巻はクライマックス、中沼に詰め寄る三国の室内シーン。カメラはゆっくりと移動するかと思うとぐっとアップにより、そしてまた斜めにせりふをしゃべるシーンを捉える。長い短いのテンポが実に巧妙でいつの間にかこの緊張した場面に釘付けになる。

政府官僚の実力者北浦剛の妻伊都子が突然家を出たという情報を得た中沼は部下の三国にその真相と伊都子への接触を試みるように依頼する。一見さりげない導入部だが、伊都子に接触を試みた三国の前に病弱な伊都子の妹三香子が登場し恋に落ちる。一方の中沼は10年前に伊都子と親しい関係にあった。現在は別の愛人が存在するという真実が次第に表にでてくる。

三国が尊敬する存在としての中沼がいわゆる善の理想型であったはずだが、中盤から後半、愛人の登場によってその姿がゆらいでくる。そして、ぐらぐらと土台から崩れていく物語が実に巧妙である。

三香子が死に、中沼の愛人がいずこかへ去り、会社は政府官僚への接触をした中沼を左遷させたりしていく。すべての正義も善も揺らぐ中で純粋そのもので生きていこうとする三国の姿でエンディングになる。

物語の深さやカメラなどは実にシリアスで見応えがあるが全体に緩急に乏しく、うねりのある展開が見られないので時間を長く感じてしまう。淡々と語られていくというのが正直なところなのですがそう感じるのはのは私だけでしょうか。三国連太郎の存在感がずば抜けている一本だった気がします。