「父」
木下恵介監督の遺作となった作品。加賀渡島の旧家に生まれた日暮菊太郎、お調子者でマイペースな父親を主人公に愛想をつかせながらもどこかで慕っている妻や一人息子が振り回される姿を描いていく。
極端なキャラクターを創造することで物語に張りを持たせ、ワンシーンワンカットに近い据え置いた長回しのカメラを多用しハイテンポで語っていくが、やはり往年の切れのある演出は見られない。とはいってもラストシーン、鹿児島の祭りの中でふとみかけた父の姿を息子が呼ぶショットで締めくくっていくあたりの演出はさすがに頭が下がる。
松山善三監督の「母」という作品と二本立てのプログラムピクチャーの一本だったと思うが、作品の出来不出来はともかく、まだまだ名作、傑作を生み出すだけの力量を十分持っていたと思われるので本当に惜しい大監督だった気がします。