くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「デンジャラス・ラン」「イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた

デンジャラスマン

デンジャラス・ラン
デンゼル・ワシントンが伝説のCIA職員というトビンに扮したアクション映画なのですが、なんとももったいない映画でした。

主演は都会への赴任を希望し、自分への評価に不満なマット。彼がCIA本部と電話のやりとりをするシーンにかぶって、トビンが一人の男と会ってあるファイルのチップを手にするところから映画が始まる。このファイルチップを手にしたとたんトビンに何者かが銃撃してくる。それを巧みに交わしてアメリカ領事館へ逃げ込む。

行方不明になっていたトビンを発見したとCIA本部は躍起になり彼を捕獲するために人員を派遣。トビンは心理戦のの天才であること、数々のプロジェクトに関わったいわば伝説的かつ危険な人物だと紹介されていく。のだが、結局、心理戦の天才たるシーンは皆無で、驚くほど優れたエージェントにも見えない。やや人並みはずれた程度にしか見えないのがこの後のシーンでも頻繁に出てくる。

一方、彼と逃亡することになるマットだが、どうも影が薄い。人物が浮き立ってこない上に、やたら細かいカットで演出される格闘シーンに画面が翻弄され、派手なカーチェイスさえばたばたと見えるだけなのだ。

マットのドラマかトビンのドラマかどっちつかずで、背後になるCIAなどの諜報機関がひた隠しにしてきている謎のミステリーもあいまい。ラストに至ってもぜんぜん驚きがないのである。

たしかに、手持ちカメラでとった映像を巧みに組み合わせる格闘シーンやカーチェイスのシーンの独創的な演出はおもしろいのだが、それに終始し、主演の二人の人間が描き切れていないので、薄っぺらなストーリーで終わってしまった感じですね。

もっと、トビンという人物のカリスマ性を強調し、対するマットのキャラクターを引き出して演出して、その背後にCIAの謎解きを埋め込めばもっとおもしろかったろうに、アクションや銃撃戦に力を入れすぎたようです。もったいない一本ですね。


イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男」
犯罪や汚職に手を染めながらも裁かれることのなかった実在のイタリア首相アンドレアッティの物語を卓越した映像と音楽センス、リズム感で描き出す並外れた傑作。

政界を失脚し、裁判の起訴を待つアンドレアッティの姿を描いていくいわば硬派の政治ドラマであるのに、映像はきわめてコミカルでハイセンス。時に遊んでいるのかと思えるような演出さえ施され、背後に流れる音楽のリズム感は政治ドラマであることを忘れさせてくれたりもする。

悪徳政治家であるにも関わらず、どこか憎めない姿にアンドレアッティが見えてくるあたりこの映画の監督パオロ・ソレンティーノの演出は群を抜いているし、にこりともせずにじっとこちらを見据えるだけのトニ・セルヴィッロの演技も抜群である。

政治ドラマという先入観にとらわれず、映像であることを最優先にし、この人物から受ける感覚をそのまま映像へ昇華させていく。まさに権力におぼれた政治家の姿はこれほどにコミカルなものなのかもしれず、右往左往する側近たちの姿もまたただの取り巻きなのである。人間の心の奥底にある素直な気持ちが具体的な映像になって飛び跳ねているような作品でした。これはおもしろかった。