「愛のお荷物」
愛くるしいほどに微笑ましい作品でした。川島雄三監督作品の中では傑作や秀作とまではいかないものの、憎めない一本という感じですね。
制作年が1955年。売春禁止法が成立する直前にして、人口問題が世界的な課題になろうとしていた時期を考えるとまさに時代に乗った風刺劇という色合いが強い。今にしてみれば映画としてよりも時代色を全面にとらえる作品ではあるかとも思えます。
川島雄三監督の感性が生み出した映像のおもしろさというのはそれほど秀でていないように思え、どちらかというとちょっと雑なドタバタ劇に終始している。出産問題に翻弄する厚生大臣の家族や関係者に次々と妊娠が発覚するという展開はおもしろいのですが、そのエピソードそれぞれが今一つお互いを刺激してこない為に、独立してしまっているのが残念。
最大の点は終盤の愛人発覚のエピソードは果たして必要があったかとさえ思えるほどのとってつけた出来事になってそのままクライマックスというのはちょっといけませんね。
とはいえ、微笑ましい。ラストで女性全員がつわりで倒れて、駒落としで右往左往する男たちをとらえてエンディング。まさに川島雄三らしいチャラけた演出である。この自由奔放さが川島雄三映画の魅力でもあるのだから、これはこれでよい。楽しい一本でした。
「ウェイバック 脱出6500km」
ピーター・ウィアー監督作品だからということで見に行ったが、さすがにきまじめな人間ドラマだった。娯楽性というものがほとんどない。ひたすら主人公たちが極限の状態でシベリアからインドへの逃避行をする姿を描いていく。
しかし、さすがに並の監督ではない。舞台となる自然の景色、厳しさがそのままストーリーを語っていく演出はなかなかのもので、導入部分あたりはしんどかったが次第に物語に引き込まれていく。アメリカ人ミスターとして登場するエド・ハリスがぴりりとスパイスを利かせた存在感でストーリーを牽引するし、途中で参加する少女の存在もさりげなく物語にアクセントを生み出す。
シベリアでの収容所シーンは冒頭のほんのわずかですぐにそこからの脱出、そして飢えにおそわれながらひたすら中語気からインドへ進んでいく。砂漠のシーンから雪山のシーン、そしてインドへ到着しての緑に覆われた田畑のシーンへと景色で紡ぐ展開が実に美しく、それだけでも見応えのある一本になっている。
この手の映画によくある途中で誰かに襲われたり、女性を巡って男同士のいさかいがあったりというありきたりのシーンは全くなく、もちろん実話であるからそうかもしれないものの、きっちりと主人公たちが必死で逃亡していく姿をとらえていく。その描写のきまじめさと迫真の演技がすばらしい。
やはりこの手の人間ドラマを描かせるとピーター・ウィアーはうまいなと思う。決してエンターテインメントふんだんとはいえない映画ですが、見て損のない一本だったと思います。