くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「最終目的地」「希望の国」

最終目的地

「最終目的地」
期待のジェームズ・アイボリー監督作品を見る。真田広之出演というのも一つの見所といえる映画でした。

非常に静かなストーリーなのですが、映像と音楽、物語が美しくコラボレートした必見の一本だった気がします。全体に落ち着いたムードで淡々と進むので抑揚がないといえばそうなのですが、背後に流す音楽の効果が監督の感性故か実に美しくて的を射ている。さらに絵画や小説などの芸術的な漂いが画面全体を覆っていて本当に品の良い作品になっているのです。

軽いタッチのテンポの音楽で始まるクレジット。それに続いて主人公オマーがある作家の伝記を書くための了解を得るために南米ウルグアイへ旅立つ。恋人ディアボロとはどこかぎくしゃくした関係が修復できない。

やってきたウルグアイの大邸宅に暮らすのは自殺した作家の兄、作家の愛人アーデンとその娘、作家の妻キャロライン、兄のパートナーピートである。次第にオマーはアーデンに曳かれ、風がそよぐように次第に沸き上がってくるラブストーリーが実に美しい。

ドアを開けたとたんに挿入されるピアノ曲、部屋の中からゆっくりと窓の外に座る兄の姿をとらえるカメラ、真っ赤に染まる夕日、広がる緑の大地、音と映像、そして物語の何ともいえないゆっくりとした画面がいつの間にか不思議な感性に包まれていくのです。

派手なシーンはありませんが、これがジェームズ・アイボリーの色でしょうね。しっかりとした芸術的な素養に支えられた美しい映像世界を体験させてもらった気がします。


希望の国
毒を抜かれた毒蛇のごとき園子温監督作品でした。

R指定を回避し、原発反対運動や動物愛護なんたらの団体の糾弾をさけ、それでいて、見た人に希望と未来を訴えかけるための教育映画を作ろうとすればここが限界でしょう。

長島県という架空の都市、福島原発の事件から少したった現代が舞台。ふつうの酪農農家が映され、そこにすむ家族を中心に物語は進んでいく。老夫婦の妻は痴呆の初期で、息子夫婦は新婚ほやほや。全く田舎のふつうの家庭に突然おそう地震とその後の原発事故による緊急避難。

この家族の庭に毒々しい色合いで咲く花々、一歩外にでれば殺風景な田園地帯。一見、奇妙に思えるのだが、原発恐怖症で異常な防護服をきる息子の嫁のいずみ。この異常な姿を徹底すれば園子温映画になったろうが、それもそれないrにしか描かないし、周りの人々の差別描写も非常に押さえている。クライマックスの牛を撃ち殺すシーンも結局鉄砲の音だけ。老夫婦の自殺シーンは結局、せりふだけ。

若夫婦が津波に流された町を「一歩。一歩。」と進む。どこに逃げても放射能は追いかけてくるといわんばかりの砂浜シーンでのエピローグもドキッとするに至らない弱さが見える。隣の女性は泣いていたようだが、非常に万人向けに仕上げた福島激励映画以外の何者でもなかった気がします。老夫婦の自殺の後、木が燃え上がったり、老夫婦と息子の会話シーンに間に杭が打たれたりシュールなシーンも挟まれているものの、園子温にしてはふつうの映画だった気がする。もっと毒づいて、チャレンジして、身を持って未来へ進めと叫んでほしかった。でも、これが限界だろうね。仕方ない。