くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「危険なメソッド」「終の信託」

危険なメソッド

危険なメソッド
デビッド・クローネンバーグ監督の最新作にして話題の一本をみた。

物語は著名な心理学者ユング、そして彼が父と仰ぐフロイト、そして二人の間に存在した女性にして後に精神分析医になるザビーナの物語が中心になる。

格調高い画面づくりで、二人の人物のクローズアップと奥に配置した構図を多用し、シャープなカメラ映像が美しい20世紀初頭の町並みを映し出していく。

しかし、精神論や心理分析論をユングフロイトが交わす場面やザビーナとの論戦、さらに愛や性にたいする考え方を論ずる場面はさすがにしんどい。フロイトが提唱した「談話療法」をユングがザビーナに施すという導入部がちょっとわかりにくいためにその後のフロイトユングの関係と微妙な確執が見えにくい部分があるのが残念。

メインタイトルが終わると馬車の中で叫ぶザビーナのシーン。そして彼女がユングに預けられて治療を受ける。異常な反応で答えるザビーナのシーンで一気に引き込むけれど、その後彼女がふつうに接し、話すようになってからが少し平坦すぎるように思える。

途中、少女時代のトラウマが重なってユングにむち打たれる場面などショッキングなシーンも交えるが、全体が淡々と著名な心理学者たちの姿として描いていく。映像の美しさはさすがにデビッド・クローネンバーグらしい力量が伺えるものの、最期まで実話の域を抜けきれなかった気がします。見て損はない作品ながら、疲れてしまいました。


終の信託
大嫌いな草刈民代の映画。女優とも認めていない彼女が周防正行監督と結婚したために周防監督作品がどんどん魅力がなくなっている、と思う一人です。

全体に静かなトーンで丁寧に見せていく。抑揚のない二時間半あまりだが、さすがに周防正行監督の演出手腕が発揮されていて飽きさせることなく見せてくれる。しかしながら、非常に薄っぺらい。

一層になる中心の物語に乗せられているのは主人公の医師の不倫とその失恋の痛手の自殺未遂のみで、患者の苦しみに耐えかねて死を与えるという下りに今一つ重みがない。結局ラスト30分以上もあろうかと思われる大沢たかお草刈民代、いや草刈民代の独壇場の長ゼリフですべてを語らせてしまう。そして、「それでも僕はやっていない」同様の余韻というか、エンディングのわざとらしい終わり方で後味の悪い問題意識を残す。

最期の最期で逮捕状を突きつけられ手錠をはめられ長い廊下を歩いて去っていく草刈民代のショットを映画的なシーンだとすればそうかもしれないが、大沢たかお扮する検事の人物背景も希薄であり、意味ありげに目配せする事務官の人物描写も甘い。

確かに、凡作ではないと思うけれども、どこかせりふで語らせるだけの作品になった気がするのです。しかも、草刈民代にそれほどの力量はないから、ただ、立て板に水を流すようにつぎつぎと説明していくのはどうも良くない。この手の独壇場シーンで有名なのは「チャップリンの独裁者」ですが、雲泥の差を感じる。

まぁ好みの映画ではないのだからのめり込めというのが無理というものですね。