くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「リンカーン/秘密の書」「のぼうの城」

リンカーン秘密の書

リンカーン秘密の書」
ティムール・ベクマンベトフ監督作品ということでもあり、「ウォンテッド」が好きな私としてはちょっと期待の映画でしたが、どうも、この手の荒唐無稽な物語にしてはわくわく感がない映画でした。もっと、血わき肉踊るどきどき、はらはら、わくわくがないと娯楽映画として楽しめないと思うのです。

確かにベクマンベトフ監督の映像表現は時に独特のカメラワークを見せるのですが、それぞれが完全に独立してしまって、ストーリー全体に生きてこない。暴走する馬の中での戦いのシーンも、そのシーン自体はなかなかオリジナリティがあるのですが、今時CGならどんなこともできる時代でそれほどの目新しさもない。クライマックス、燃える鉄橋の上を走り抜けていく汽車のシーンもありきたりで、手に汗握るものがない。映像は技術だけで見せるものではないということを忘れているのかテクニカルのみに頼ったシーンになっている。

殺戮シーンはかなりグロテスクで、血を意識した赤をイメージの画面づくりはわかりますが、そんな小手先ばかり羅列しても本来の冒険物語のおもしろさにつながっていないのです。

やはり主人公がアメリカの英雄的存在であるリンカーンであるためにどこかで躊躇があるのか、ラストで有名な演説と、暗殺される劇場へ向かうシーンでエンディングを迎えるという、やはり偉人にたいするこだわりから抜けられなかったのか、爽快な終わり方で物語を終結させていないのがもったいない。

敵方のバンパイアのカリスマ性の弱さ、リンカーンの味方になるスピードやヘンリーらの個性も今一つ引き立たない。まぁ、こういう映画に最高の期待を求めるのは難しいかもしれないけど、時々目の覚めるような傑作に出会えることを考えると、今回の映画は今一つ弱かった気がします。


のぼうの城
犬童一心樋口真嗣共同監督という作品で、例によってテレビ局主導の映画なので期待はしていなかったが、これがどうして、予想以上に良かった。

徹底的に様式にこだわった映像づくりと野村萬斎による抜群の演技力が作品を牽引したという感じです。物語のおもしろさはそれほど秀でた脚本に仕上がっていませんが、田植え歌や形式美にこだわった画面の構図やシーン、それぞれに野村萬斎のしっかりとした日本舞踊の身のこなしが見事にコラボレート、他の俳優はかなり影が薄くなってしまったものの、作品全体は質の高いものに引き上げられました。

アクションシーンや特撮シーンは樋口監督が担当したのでしょうが、それは特に目を見張るものには思えなかった。冒頭の水責めの濁流シーンは懐かしい古き映画の特撮らしい色合いは見応え十分。クライマックスの城攻めのシーンなどCGと昔ながらのミニチェアセット、スクリーンプロセスを組み合わせた映像はさすがに樋口監督のこだわりが見られて良かったが、セット撮影の場面はデジタルカメラが妙に白々しい映像になっていたのは撮影担当のカメラマンの力量不足だろう。

導入部から一気に忍城に豊臣軍がせまる本編への流れは実にスピーディで、その後延々と攻防戦が描かれるがほとんど飽きさせないくらいテンポがいい。しかし残念ながら石田三成を演じた上地雄輔に迫力がなさすぎるし、成宮寛貴佐藤浩市が空々しいほどに重みがない。全く、野村萬斎の独り舞台のごとくかろうじて彼の存在が時代劇としての作品の存在感を出したという感じである。

原作はもともと城戸賞受賞のオリジナル脚本であることを考えると、なかなかのできばえの作品だったでしょうか。一級品ならずとも、見応えのあるエンターテインメントだった気がしました。