くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ボディ・ハント」「チキンとプラム あるバイオリン弾き、

ボディ・ハント

ボディ・ハント
今ちょっと気になる女優ジェニファー・ローレンス主演のサスペンスホラーを見る。なかなかおもしろい。ジョナサン・モストウ原案の物語の構成の切り換えのおもしろさは絶品ではあるが、若干、映像演出がそれについてこれない部分があり、導入部の切れの良さが本編に入ってからあまり見られないのは残念。結果、もたついているうちにネタがクライマックスの一歩手前でだいたいばれてしまう。

とはいえ、近頃では掘り出し物のホラーストーリーを堪能することができた。

映画が始まると、なにやら顔のアップ、その見つめる先にガラス玉に仕掛けた家の置物のショットからゆっくりと立ち上がる少女。別の部屋で両親らしき二人が寝ていて、物音に目をさました母親が「また、キャリー・アンね」と起き出す。さっきの少女の名前らしいが、いかにも不気味な歩き方で手に何か持っている。カメラが足下からはうように移動するとそこへ母親がでてきて、呼びかけるまもなくその少女に殺される。ここまでのカット割り、カメラ、編集の妙味はデジタルテクニックを多用しているとはいえなかなかのものだ。

ここから四年後、惨劇のあった家の隣に越してきたエリッサと母、典型的なホラー映画の設定に始まる本編はおきまりとはいえ、わくわくしてくる。夜中に、誰もいないはずのとなりに明かりがともるが、これもすぐに翌日、惨劇の日によそに預けられていた弟ライアンが戻ってきたのだと説明される。

回転するカメラ、駒落としのような演出でどんどん映像を組み立てていき、このライアンが実に好青年であると印象づけていく。しかし、中盤から後半にかけなぜかそんなテクニカルな演出が影を潜め、斜めに構える程度のカメラワークへと変化していく。この技巧的な演出変化も見ようによっては見事といえるかもしれないが、前半の切れの良さがかえって後半がもたつく結果となって、ライアンが隠していた少女キャリー・アンがもみ合ううちにライアンによって殺されて展開が変わってから、じわじわとネタが見えてくるのが実に残念。

時折フラッシュバックでライアンとキャリー・アンのブランコのシーン、キャリー・アンの死がほのめかされ、実はライアンが両親を殺した犯人で、キャリー・アンを殺したという罪悪感から少女をキャリー・アンとして拉致していたという展開へ移る。その謎を発見するエリッサ、そしてこの手のホラーの常道として、味方の警官は死に、エリッサが単独でライアンに立ち向かう。

意外にあっさりとライアンは倒されるがエピローグ、精神病院のライアンは独り言とフラッシュバックで実はキャリー・アンの死後母親がライアンをキャリー・アンとして育てていた事実が描写されたことが明らかになってエンディング。

おもしろい設定なのに、謎が明らかになるまでの構成のバランス、そして二転三転する謎がストーリーを引っ張っていくテンポがちょっとよくないために、意外性が最後の最後に効いてこない。映画ズレした私のような人間故の失望かもしれず、普段みない人は新鮮なショッキングに驚くのかもしれないが、ほんのわずかのストーリーテリングの組立の弱さが一級品に後一歩手が届かなかった結果になったように思います。新人マーク・トンデライ監督のやや未熟な演出の結果だと思うと本当に惜しい。


「チキンとプラム あるバイオリン弾き、最後の夢」
とってもピュアで切ないファンタジックなラブストーリーの佳作、涙するラストシーンは必見の一本かもしれません。でも、前半はちょっとお遊びがすぎたかもしれない。
それでも、終盤のめくるめく走馬燈のような回想には誰もがハンカチを手にせざるを得ないのかもしれないかなと思えるのです。

天才的なバイオリニストナセル・アリ。しかし、ヒステリックな妻にその愛用のバイオリンを壊され、悲嘆の中新しいバイオリンを求めに町へ。一台のバイオリンを手にして帰る途中一人の女性に出会う。いや再会する。その女性こそ、彼が若き日、まだ修業時代に出会った恋人イラーヌの年老いた姿だった。イラーヌの名を呼ぶが彼女はナセルを知らないと答える。

なにもかもが過去になったと悟ったナセルはいくら新しいバイオリンを手にしても、遠くの町に出かけてすばらしいバイオリンを手にしてもかつてのような音色を奏でることができない。悲嘆にくれた彼は死ぬことを決意する。そしてその死の床で思い出す様々な過去。

修業時代、一人の女性イラーヌに出会うが、芸術家との結婚のイラーヌの父に反対され泣く泣く別れる。しかし、彼女への思いだけを心に奏でるナセルのバイオリンはやがて天才的と謡われ、世界的なバイオリニストへと飛躍していく。その人生の一方でイラーヌは別の男性と結婚、出産、さらに娘も結婚と順調な人生を歩むものの、常に心には若き日に別れたナセルへの想いが残っている。一方のナセルも誤った結婚、子供にも恵まれるが、いつも心にはかつての恋人イラーヌへの想い。

死の間際で思い起こす過去の人生がやがて、映画の冒頭のイラーヌとの再会へ。実はイラーヌはナセルに気がついたのである。知らない振りをしたものの、街角に隠れてあふれる涙にむせぶ。そしてナセルの死、葬儀を陰で見つめるイラーヌ。そしてエンディング。

ナセルの死の床に現れる様々な悪魔たちや別世界の生き物が余りに幼稚で作品全体を陳腐に見せる前半部分がちょっといただけない。まぁ、これもコミカルでアニメチックな演出ととらえれば決して失敗ではないかもしれないけれども、このあたりもう少し創造力を膨らませて大人の映像としての演出をするのも一つの方法だったかもしれない。でも、なんか胸に切なく残る一本でした。