くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「最初の人間」「シェフ! 三ツ星レストランの舞台裏へよう

最初の人間

「最初の人間」
アルベール・カミュの未完の遺作小説の映画化、監督はジャンニ・アメリオ監督である。

物語は1957年、独立運動に揺れるアルジェリア、ここに生まれた主人公コルムリがフランスから帰ってくるところから映画が始まる。この地で少年時代を過ごしたコルムリの姿が時に少年時代にさかのぼって描かれていく。

1957年に戻ればフランス人とアラブ人の確執が無用なテロや諍いを生んでいる。かつて彼が育ったアルジェリアには働き者の母、気のいい叔父、厳しいが愛情あふれていた祖母の姿、さらにアラブ人の幼なじみや、貧乏な彼を文学へと導いた恩師がいた。そして、大人になったコルムリは彼らを訪ね、かつてと時代が変わったように感じる。

人物や物を画面の中心には位置したシンメトリーな画面が頻繁に登場するので非常に落ち着いた映像になって物語が進んでいく。抑揚のない淡々とした展開はある意味しんどいが、アルジェリア独立運動というきわめてシリアスな社会背景を描く中での一人の人物の物語としてとらえる上で、非常に客観的で訴えかける物が見えてくるような効果を生んでいるのはすばらしい。

夜の町にぼんやりと浮かぶ街頭の光のなか人物をとらえるショットなど詩的なシーンや広大な農園のショットがとらえられるかと思うと、カフェで飲んでいたコルムリが突然の大音響に飛び出すとバスが爆発したテロの現場に出くわす。かつての友人の息子がテロ運動の容疑で死刑になる。様々な1957年につながる出来事がさりげなく少年時代のシーンに伏線を張っているというきめ細やかな脚本も見事で、非常に上質で優れた作品となっています。

母にあったコルムリが、自分の生まれたときの状況を聞いて、生まれた瞬間のシーンが描写される。かつての生まれの地は今農園になっている。そこを買い取ろうとしているかの会話のシーンから、エンディングへ。

優れた一本ですが、ちょっと、しんどいですね。


「シェフ 三ツ星レストランの舞台裏へようこそ」
B級フランス映画のコメディなるものがあるもんなのだと一つの発見をした映画でした。気位の高いフランス人がこれほどまでにばかばかしくも適当な映画を作り、それを輸出したという感覚にある意味拍手した。これが香港映画ならなるほどなのだが、フランス映画とは、時代が変わったものである。

物語は単純。有名な三ツ星レストランのシェフ、ラガルドのもとに訳の分からない効率化を進める社長からの横やりが入る。そして次の審査で三ツ星にならなければやめてもらうことになる。そこに助っ人としてやたらレシピに詳しいジャッキーが登場、すったもんだがあって、危機を乗り切り、ジャッキーが次のシェフになってハッピーエンド。全くよくある話である。

新しいメニューにこだわるレストランの若社長がすすめる分子料理なるものをさぐるためにラガルドとジャッキーがちょんまげの侍と舞妓担って潜入。度肝を抜かれるより、あきれる展開に開いた口がふさがらない。分子料理なるものの名称も明らかに日本をターゲットにした皮肉であり、完全に日本的なテクニカルへの風刺劇である。それならそれで徹底すればいいが、ラガルドの娘との確執やラストの恋物語、さらにジャッキーと恋人の波乱、などなどがてんこ盛りに支離滅裂に描かれていく。

これはもう、適当に作ったコメディ映画と呼ばざるを得ず、プロの作品とは考えがたいほどの出来映えである。香港映画は娯楽に徹しているが、決して基準になる道筋をはずさずに一貫して完成させるが、この映画はその意味で全くはき違え、勘違いも甚だしいのである。

90分のエンディングの後に、なんとも後味の悪い適当さに参ってしまった自分がいた。難しいことをいわずに気楽に楽しめる映画として受け入れられればいいのだが、それもできない中途半端さにものすごく残念な想いをした作品でした。