くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「テッド」「スプリング・フィーバー」

テッド

「テッド」
テディベアのぬいぐるみがしゃべる上におっさんのようになって大活躍する話題のコメディを見る。
いや、これは楽しかった。古き懐かしいアメリカンコメディの世界。シーンの合間に笑いの効果音が入るあの手のテンポでどんどん物語が進んでいく。

懐かしい映画のネタ、下ネタ、差別ネタなど満載のブラックなせりふの数々と、短い足でトコトコと歩くテディベアのぬいぐるみの愛らしさ。その一方でビールを飲み、大麻を吸い、女性をくどくというおっさん丸出しのキャラクターがなんともほほえましい。少々、ストーリーテンポが緩いように思えなくもないが、このアイデアとノリだけで十分見た値打ちがあったと思う。

主人公ジョン・ベネットの幼い頃、友達もいない彼にクリスマスプレゼントでテディベアをもらう。ところが少年の思いが届いたのかある日そのぬいぐるみが突然しゃべりだし、しかも世間でも有名になっていってタイトル。この導入部、ほんの少し間延びする気がするが、一気に有名になって有名無実の存在になってから本編という入り口が実にいい。

そして27年。主人公ジョンには一緒に暮らす恋人ロリーがいて、テッドもすっかりおっさんの性格になっている。
あとはこのロリーとジョン、テッドのどたばた劇である。あちこちに懐かしい映画のネタを盛り込み、最大のネタはなんとあの「フラッシュ・ゴードン」。中年の映画ファンにはたまらないし、これ以外にも若い頃にみた映画のさまざまなパロディ満載。

最後の最後にテッドが妙な親子に拉致され、彼を助けるジョンたちとのチェイスシーンから救出、死んだと思われたテッドは奇跡で生き返り、ロリーとジョンもめでたく結婚。ハッピーエンド。しかし、その後まだまだ遊びのショットがふんだんに取り込まれて映画ファンにはたまらない。

爆笑することもニヤつくこともないコメディで、アメリカンジョークの数々はちょっとテンポが悪いように思えなくもないが、口コミでヒットするだけのおもしろさをしっかりと備えた映画らしいエンターテインメントでした。もう少しファンタジックでもよかった気もしますが、それは監督の意図ですからこれでいいかなと思います。


スプリング・フィーバー
公開当時はレイトショーで見逃していたがキネ旬ベストテンにも入ったので見る機会を待っていた作品である。

まず、物語構成が見事な脚本のすばらしさと音楽に乗せてビートの効いた映像テンポのうまさがこの作品の優れている点である。当局に映画を撮ることを禁止されていたロウ・イエ監督が隠れ撮影でゲリラ的に撮ったために画面がかなり暗いが、しっかりと組み立てられた脚本と映像センスの良さで決して混乱させず五人の男女の自由奔放な恋の結末を描いていく。

映画が始まると蓮の花が浮かぶ水槽をアップにタイトル、そして二人の男性ワン・ピンとジャン・チョンが車に乗っている。そして立ち小便のあと小屋の中で抱き合う。二人はゲイなのだ。しかし彼らをつけている一人の男ルイ・ハイタオが登場、彼はワン・ピンの妻リン・シュエに頼まれて夫をつけていたのだ。このハイタオには恋人リン・ジュエがいるが、いつのまにかチョンに興味を覚え、ゲイに近づいていく。

この五人の入り乱れた中にどこか切ないラブストーリーが次々と相手を変えてからみ、挫折し、未来へ進もうとする。一見、ゲイの映画のようにスタートするが、いつのまにか女性を愛していた男性が男性に引かれ、またゲイだったチョンも終盤では女性を抱く。そこにあるのは究極の愛の定義なのではないかとさえ思えてしまう。

ワン・ピンの自殺で泣き崩れるチョン。ジュエという恋人がいるのにチェンを抱いてしまうハイタオ。その姿を見て、チェンに恋人同士としての嫉妬を覚えるジュエ。それぞれの心の葛藤が複雑に繰り返され、展開していく物語は複雑なのに分かりやすい。これは脚本のうまさ以外の何者でもない。

さらに、映像のそこかしこで挿入される音楽の絶妙のリズム感。この優れた感性による選曲のうまさが映像にリズムを生み出す。まさにロウ・イエ監督の才能がなせる技である。

結局切ないラストシーンで締めくくられるが、見終わってなにか胸に響いてくる充実感がある。なかなかの秀作だったと思います。