くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「明日の空の向こうに」「駆ける少年」

明日の空の向こうに

「明日の空の向こうに」
「木漏れ日の家で」のドロタ・ケンジェラフスカ監督の新作。何とも不思議にすばらしい傑作という言葉が当てはまりそうな心に残る名編でした。

映画が始まるといきなりロシア調の軽やかな音楽とともに駅の待合室に勢いよくドアを開けて子供たちが飛び込んでくる。主人公のペチャとその兄ヴァーシャである。二人はベンチでふざけあってやがて眠りにつく。翌朝、友人のリャパがヴァーシャになにやら地図を持ってやってきて、ここを出ようと提案、放っていかれそうになった幼いペチャが後を追いかける。

こうして三人のロードムービーのような物語が始まるのだが、なんといっても幼いペチャが抜群にかわいいのである。めいっぱいの笑顔で笑うシーンだけでなく、三人の中で一番頭の回転もよく、口もうまいのが何とも愛くるしいのである。物語に出てくる大人たちも思わずその笑顔にほだされるのだが、リアルにこちらで見ている観客もそういう大人の言動に納得してしまうのである。

草原の中、鉄橋、草蒸した線路などをどんどん進んでいくのだが特に劇的な展開はない。しかし、終始このペチャの姿にどんどん引き込まれていく。

さらにカメラが実に美しく、草むらの向こうに見え隠れする少年たちの姿や、鉄条網をくぐるときの夜空に浮かぶ月のショットなどは抜群。さらに冒頭でベンチに眠るペチャのカットが微妙に揺れて一夜が明けるショットなども幻想的なほどに美しい。

彼らは旧ソ連、つまりロシアに住んでいて、いわゆる浮浪者である。国境をくぐってポーランドへ行くというのがお話であるが、途中までどこを目指しているものか見当がつかなかった。国境を越え、そこでポーランド人の子供たちにでくわして「ロシアのさるたち」とからかわれて初めてわかるのである。

このシーンで一人の少女が持っていたパンを男の子にはたき落とされるシーンがあり、その後泣くのであるが、この少女、ラストで警察署から強制送還されるペチャたちのところに一人忍び込む。結局、車でつれていかれたペチャたちの後で門を出るときに二階から見下ろしている署長に「なにをいっているのかわからない」とつぶやくが、つまり、「亡命」という言葉を言ってくれないとペチャたちを保護できず、結局送り返さざるを得なくなる大人の理屈に対する皮肉なのだろうか。

ペチャたちが途中で若の水をくんでペットボトルで引きずっていったり、結婚式に遭遇してお酒を飲んだり、花嫁にペチャがお金をもらったり、パン屋のおばさんにお世辞をいってパンを恵んでもらったり、それぞれのシーンが実に愛くるしくも美しいのである。

まるで一遍の詩編を見るような純粋な子供たちの物語なのだが、ラストで彼らに突きつけられる大人の論理による厳しい現実がこの映画を非常に重いものにしているかもしれない。随所にちりばめられる美しいショットがかえってラストの現実をさらに増幅しているかの如しなのです。しかし、いい映画でした。


「駆ける少年」
「CUT」のアミール・ナデル監督の1985年に製作した傑作で日本未公開だった一本である。

主人公のアミル少年は監督の少年時代の体験を元にしているということで自伝的な意味合いも強い作品かもしれません。

物語というほどのものはなく、船の中に住む主人公アミルがただ港でたくましく生きていく姿を映像詩のような方法で描いていきます。ひたすら叫び、駆け回るシーンが頻繁に登場する映像表現で、その力強いショットの連続が作品全体のイメージを形作っているという感じですね。

映画が始まるとアミル少年が叫んでいる。そして次のシーンでh浜辺を走っていく。彼方には巨大なタンカーが見え、手前には港に集まる人々の姿が映し出される。その日の仕事を自分たちで見つけては生活するアミル少年の友人たちとの毎日が切々と描かれていく。

港に流れ着く空瓶を集めて売ってみたり、港に集まる人々に氷水を売ってみたり、靴磨きをしたりしてその日の生活の糧を稼ぐ。近くの空港に留まっている自家用飛行機にあこがれ、その写真が載っている雑誌を買い求めたり、美しい外国客船にうっとりしてみたり。

読み書きのできないアミルはある日俄然勉強することを希望し夜間学校へ通い始める。

そしてクライマックス。久しぶりに友人たちとサッカーをしたりして遊ぶアミルのシーンから、天然ガス吹き出して燃える砂漠の途中のドラム缶の上に氷のかけらをおいてそれを目指し友達で競争。子供たちが一心不乱に走るシーンのすがすがしいこと。そして、真っ先にたどり着いたアミルは氷を取り上げ手かぶりつくスローモーションから、氷を友人に与えて、ドラム缶の上の水たまりをたたきしぶきをあげる。背後に囂々と燃える天然ガスの炎のシーンは圧巻。

結局どこへ行き着くことのない物語で、ラストは旅客機が飛び上がるのをバックに叫ぶアミルのシーンでエンディング。全編、アミルの叫び走るシーンが映像のリズムを生み出していくいわゆる映像叙事詩でした。その意味でハイクオリティな一本だった気がします。