「秋のソナタ」
いうまでもなくイングマール・ベルイマン監督の代表作を30数年ぶりに見直した。
このクラスの映画になるとそのすばらしさに毎回新しい発見があって驚嘆してしまう。今回は、スヴェン・ニクベストのすばらしいカメラに酔いしれてしまった。
画面の中に必ず配置される赤のイメージの美しさがすばらしい。主演のエーヴァ(リヴ・ウルマン)の服装がグリーンを基調にしているが母であるミーシャ(イングリッド・バーグマン)の服装は赤である。お互いに補色の関係にある色彩を配置することで母と娘の長年の確執を見事に色彩でも表現する。
映画はエーヴァが七年ぶりに母を自宅に招くところから始まる。最初に真っ赤な服を着たエーヴァのカットをじっと見つめる夫の独り言から始まる。
まるで母を思う優しい娘の物語かと思わせる導入部から始まるのだが、母がやってくるとエーヴァは妹のヘレーナがいると告げる。その言葉にいやな顔を露骨に見せる母。ヘレーナは障害があり寝たきりで言葉もほとんどしゃべれない。そんなヘレーナを娘なのにいみきらっている母の姿が衝撃である。
ここから物語はどんどん娘が母に対する恨み辛みを延々と語る展開へ変わっていく。母と娘の拭えない長年の確執の物語がこの映画の中心的テーマである。ベルイマンが常に描いた神の不在に通じるテーマの一つかもしれない。
過去の出来事が細かいカットでしかもほのぼのした落ち着いたカメラアングルで挿入され、現代に戻るとクローズアップを多用した緊迫したシーンが繰り返されるリズムとテンポの見事なこと。
打ちのめされた母は去り、列車の中で同乗してもらったポールに「ヘレーナなんて死ねばいいのに」とあっけらかんと語る。一方エーヴァは母に言い過ぎたと詫びの言葉を手紙にしたため夫に出してくれるように頼む。その内容を夫が呼んでエンディング。
延々とエーヴァが母に迫る下りが後半ほとんどなので正直退屈でしんどい。もちろん、細かいカットと長回しの交互に挿入される映像のテンポは実に見事でカメラの美しさも目を見張るが、さすがに疲れてしまうことも正直なところである。
しかしながら、そんなところをさしおいても見事な作品である。それは否めない。これが名作であると納得してしまうのだからさすがイングマール・ベルイマン、巨匠の作品とはこういうのをいうのだろう。
「人生ブラボー!」
物語の構成は実によくできているのですが、せりふがしつこいのとシーンが純長なために非常にもったいない出来映えになってしまった気がします。
映画が始まると1988年とテロップ。一人の青年ダヴィッドが病院で精液を採取するべく指示されている。そのシーンをバックにタイトル。そして時は現代。この主人公ダヴィッドはかつてスターバックという仮名で精子を提供していたらしく、彼の正体をみたいとその生物学的子供たちが訴訟を起こすところから物語が始まる。
友人の弁護士からその訴訟団のリストをもらい、ランダムに一人を選ぶとなんとプロサッカーの選手。それに味を占めて次々と訴訟団のメンバーつまり自分の子供の今を探し始める。この前半部分がなかなかの出来映えでこのテンポで後半へ流れればよかったのだが、だんだんとせりふとシーンがしつこくなってくる。
恋人との間に子供ができたというエピソード、子供たちに接近していくうちに彼らから同士としての親近感が生まれていく下り。さらに子供の一人が障害者でその補助をするうちに芽生える愛情などなどがどんどん膨らんでくる。
ダヴィッドの家族もアットホームだし、やがて金のために逆訴訟を起こして勝利し金を手にする寸前で自分からスターバックだと告白。今の恋人との間の子供も産まれて、訴訟団のメンバーの弟ということでどんどん物語はハートウォーミングに流れていく。
ストーリーは本当に練られていて単調ではないのだが、それぞれがせりふの説明が多すぎてしつこいためにだれてしまうのである。もう少しシャープに切れのよい展開で一気にラストシーンへなだれこめば抜群の佳作に仕上がったろうにちょっと残念。でもなかなかいい映画でしたね。