くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「王になった男」「コブラ・ヴェルデ 緑の蛇」

王になった男

「王になった男」
韓国の宮廷劇である。最初から期待もしていないし、つまらないのを覚悟でみたのですが、なんとこれがストレートにおもしろかった。特に宮廷内の陰謀のたぐいをサスペンスフルに描いているわけでもなく、自分の命がねらわれているという恐怖心から影武者を雇うがその影武者が本当の王の横暴をよそに名君たる名采配をふるって民を助けるというありきたりの話である。にもかかわらず、マンネリとも思わず最初から最後まで画面に釘付けになりました。

時は19世紀、朝鮮に光海君という王がいた。かつては名君といわれたが、宮廷内の陰謀と自分への謀略におののいている間に次第に暴君と化していった。そして、その対策として自分と瓜二つの影武者を捜すように命ずる。そして見つけられたのが道化をして暮らす調子ものの男ハソン。時を経ずして光海君が体調を崩し、そのままハソンが王の代わりをすることになる。

最初は適当だったが、この手の話の常として次第に名君たる采配を振るいだし、側近への暖かい情で接したためにかれに惹かれるものも現れる。そして物語は当然、偽物とばれて宮廷内で権力のある男が兵を起こすが、影武者を補佐していた重臣の機転で偽物が王位についていた15日間の善行を光海君にしめし、改心させ、謀反を鎮圧。その後名君として君臨する。ハソンは無事船に乗り彼方へ去っていく遠景でエンディングである。

物語が非常に丁寧に作られていて、脚本も手抜きがない上に、演出にもしっかりとした人間描写がなされているために、嘘嘘しくならずに上質の宮廷劇として完成されている。特に際だつカメラワークこそないものの。スクリーンを効果的に利用した壮麗な宮廷内の物語がリアリティとフィクションのおもしろさを作り上げていく画面作りが成功したものだと思います。見て損のない映画らしい一本でした。


コブラ・ヴェルデ 緑の蛇」
ヴェルナー・ヘルツォークという人は狂っているのかと思ってしまう。今回の作品は奴隷貿易で成功し、アフリカ総督にまでなるものの失脚してしまうコブラ・ヴェルデという男の波乱の話であるが、アフリカの島に着いてからの現地の人々の姿、行動をとらえるカメラ描写は尋常ではない。それが作られたように美しいのである。

女兵士たちがむれをなして海岸で訓練をするシーン、手旗信号で延々と遙か彼方まで並んだ女たちが信号を送るシーン、浜辺にあふれるばかりの奴隷たちが群がるシーン、究極はラストシーン、小舟に乗って逃げようとするコブラ・ヴェルデのあとを猿のような奇形の黒人がひょこひょこと追いかけてくるシーン。いずれもがまるで芸術のごとく美しい。

ストーリーテリングにおいてはこの作品では重きを置いていないのか、例によって主人公コブラ・ヴェルデに扮するクラウス・キンスキーがやたら叫ぶシーンが続き、取り巻きの人々がさまざまな状況を語っていくのですが、なんのことかついていけないのが事実です。しかも、原住民の部族と戦ってみたりするスペクタクルなシーンに至っては本国と彼の立場がどういうことなのか非常にわかりづらい。

映画が始まってすぐ、地面に無数に動物が死んでいたり、まるで予言者のごとき格好で歩くコブラ・ヴェルデをおそれて人々が隠れるショットなど不気味なほどにシュールである。

結局、ラストのテロップに見られるように奴隷は主人を売って自由を勝ち取るごとく、彼は裏切られ一人孤独に放り出されるのである。ただひとり奇形の奴隷が彼を哀れむかのようについてくるものの、一人では動かない小舟を見て立ち止まる。

何度も書きますが、ストーリーテリングにおいては全くこだわらず、ひたすら映像で押し切ってくる。それもかなり大胆にかつ強引な展開を徹底しながらも非常に芸術的才能で美しい画面を作る。しんどい映画ではありましたが、思い返すと本当にきれいな画面だったという印象が残りました。やはりヘルツォーク監督はただ者ではないですね。