くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「逃走車」「草原の椅子」

逃走車

「逃走車」
車載カメラによる迫真のアクション映画というふれこみの一本を見る。こういうB級映画の中に低予算で工夫を凝らした掘り出し物に出会うのですが、今回の作品はまぁ、その一歩手前のアクション映画という感じでした。といって、つまらなかったわけではなく、最後まで退屈せずに楽しめました。

映画が始まるといきなり男の横顔のアップ。背後からパトカーが空からヘリコプターが迫っていて彼は来るまで逃げている。そして、目の前にトレーラーが見え、急ハンドルしたところで物語は少し前に戻る。よくあるパターンですよね。

空港でレンタカーを借りた主人公のマイケル・ウッズは仮釈放の規則違反のまま国外の妻アンジーにあうためにやってきた。ところが借りたレンタカーは会社の手違いで車種が違う。走り出すと意味不明の携帯電話、ピストル、さらには猿ぐつわをはめられた女性が。

この女性は検事のレイチェルで、この国で行われている性的人身売買の黒幕である警察署長のベンの証拠を判事のムジカに渡す途中で拉致されたという。いわゆる巻き込まれ型のサスペンスが始まる。

途中でレイチェルが殺され、市の間際に携帯電話に録音した証言を持ってムジカ判事を目指すマイケル。彼には殺人容疑がかかり、警察が追う。そしてカーチェ椅子の末に冒頭のシーンへ。そして、最後の最後にテレビ局のマイクに録音を流して、撃たれたもののすんでのところで目的達成ハッピーエンドである。

途中のシーンにわずかにもたつきがあるために、カーチェイスのスピード感を殺してしまう。このあたりもう少しリズミカルな演出を行えばハイスピードなおもしろい作品に仕上がったと思う。さらに、サスペンスのおもしろさにも一工夫、あるいは第三のキャラクターをはめ込んだりする懲りようがあってもいいかもしれなかった。

非常におもしろいし、スピード感もそこそこあるが、全体のテンポが平坦であったのがちょっと残念。それでもとにかく気楽に楽しめるエンターテインメント映画には仕上がっていた。その意味でこのムクンダ・デュウィル監督の次の作品も楽しみな一本でした。



「草原の椅子」
宮本輝原作、成島出監督作品なのですが、何とも平凡な映画だった。悪くいえばテレビのスペシャルドラマレベル。あの「脳男」の脚本を手がけた成島出の作品かと思える出来映え。

物語は非常に美しく胸を打つドラマなのであるが、それぞれの登場人物の人生のドラマが描き切れていないのである。やたらあの無責任な喜多川夫婦の存在感が際だちすぎて、周りがかすんでしまったといえるかもしれない。それは中心となる子役にもいえてしまっているのが本当に残念。

親に虐待された四歳の少年圭輔、子供ができないからと離婚せざるを得なくなった貴志子、やむにやまれずリストラした結果社員が自殺してしまって苦悩する富樫社長、そして、自分の浮気、妻の不倫が原因で離婚し娘と暮らす遠間、それぞれに残酷な人生の一ページのような過去がありそれを乗り越えるために圭輔を通じてパキスタンに行くのであるが、どうも胸に迫ってこないのである。

おそらく宮本輝の小説の中では淡々とした胸に迫るドラマが描けているのだと思うけれども、それが伝わりきれない。いや、映像になっていない気がします。
決して下手な役者をそろえているわけでもないのに、淡々としたせりふの応酬に心に迫ってくる迫力、リズムが見えてこないのです。

前半は虐待を受けていた圭輔の父秋春に同情した遠間の娘弥生が圭輔を預かるのですが、実はこの秋春も身勝手な男だとだんだん見えてくる。でも、ずるずると圭輔を預かり続ける。にもかかわらずだまされた弥生への非難はないし、反省もない。このあたりの描写も弱い。さらに、子供の母祐未も登場するがここも小池栄子がやたらがんばっていて、淡々と演じる佐藤浩市たちとかえって目立ちすぎて作品の静かなドラマ性が崩れていく。単にこの夫婦に対する嫌悪感さえ生まれてきて、物語の主題からぶれていくのである。

そしてクライマックスはパキスタンで写真集にのっている106歳の老人に瞳を見てもらう展開なのだが、そこからこの圭輔を引き取り遠間と貴志子が結婚する流れになるあたりもちょっと唐突にしか見えない。

どうも全体に弱い。ただそれにつきる一本でした。しかも長い。残念だなぁ。いい映画になるはずなのに。