くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「たとえば檸檬」「ヴォイチェック(ヴォイツェク)」

たとえば檸檬

「たとえば檸檬
アジアの純真」の片嶋一貴監督作品と言うことで見に行く。それほど期待もしてなかったのですが、意外になかなかの佳作でした。ちょっと、鼻につくメッセージもないわけではないのですが、物語の展開といい、編集のおもしろさといい、エピソードのバランスといいよくできた作品でした。

一人の中年の女性、有森成実扮する香織がどぎつい化粧をしているシーンに映画が始まる。大手企業の役員派遣秘書であるが万引きの常習者でしかもSEX依存症で、行きずりの男性とSEXにふける。引きこもりの二十歳になる女の子がいてこの子が香織の食事を作っているようである。

ここにもう一人カオリという彫金の専門学校に通う女性がいる。母は飲んだくれの男狂いでしかも狂神的にカオリを罪から遠ざけようとする。しかもカオリの授業料さえも払わず、カオリは今にも退学をさせられるほど逼迫している。学校の同級生にいかがわしいところへ誘われてそこで一人の綾野剛扮する一人の男と出会う。

こうして二人の香織とカオリの物語が交互に描かれ、カオリが作る指輪に惹かれた綾野が彼女に才能を見いだして援助し、恋人にしていく展開が語られる。そこに一人の若い警官が絡んでくる。カオリが最初につれていかれた店にいたチンピラの男に子供の頃からいじめられていたこの警官はこの男を刺し殺す。その場で自殺しようとしていた警官だが、人の気配に隠れるとそこへたまたまカオリが通りかかる。あわてて逃げようとするカオリの前に警官が何気なく現れる。ここでふたりはかかわるのである。

香織はある日万引きが捕まり警察で伊原剛志扮する刑事に助けられる。この刑事がことあるごとに彼女に接してきて、彼女を精神科の病院に世話をする。この刑事もまたアルコール依存症なのだ。

しかし、この二人の香織とカオリがなんとなく似ていて絡んでくるあたりから物語が見えてくる。実はカオリは香織の若き日の姿であり、カオリが母に受けた仕打ちゆえに現在の香織になってしまった。そして現在の香織は20年前に死んだ子供がまだ生きていて引きこもっていると思っているのである。さらに、接してくる若い警官の後の姿は香織に接してきた刑事なのだとわかる。

カオリに愛情の注ぎ方がわからず狂ったように接する母。やがて首を吊って死ぬ。
カオリが最初にデザインして綾野に気にいられた指輪のデザインは幼い日に母に書いてもらった檸檬を輪切りにした絵なのである。子供への愛情の象徴としての檸檬は香織が冷蔵庫を開けると腐った檸檬があり思わず嘔吐するシーンにかぶる。

そして、どうしようもなくなったカオリは母と同じく自殺しようとするが壁に檸檬の絵が自殺した母によって刻まれている。刑事も過去の罪を悔いて拳銃自殺する。

運命の連鎖を語りながら、愛情の注ぎ方がわからない綾野、母、そして警官、さらに母と娘のゆがんだ愛情も描かれる。それぞれのどうしようもない依存しあう愛の形を檸檬の輪切りの姿に象徴させ、甘酸っぱくもどうしようもなく離れてしまうもの悲しさを描写した片嶋監督の手腕はなかなかのものである。カオリの母が自殺する背後にあるステンドグラスの神の愛のメッセージはややあざとくもないわけではないが、全体によくできた秀作だったように思います。

「ヴォイチェック」
ヴェルナー・ヘルツォーク監督作品ですが、何とも妙な映画でした。

映画が始まると一人の兵士ヴォイチェックこちらへコミカルに駆け足でやってきて体操を始めてタイトル。この兵士、妙にちょこちょこという動きで大尉の髭を剃るのもせわしないので大尉にいさめられる。病院では妙な実験の治験者になっていて、豆ばかり食べて暮らしたりする。

恋人のマリーとは二年越しの交際だがこのマリーが楽隊の兵士と浮気をしたらしいことを知ってナイフで刺し殺すのがクライマックスになり、横たわる死体を囲む黒服の男たちとなにやらシュールなテロップが流れて突然エンディング。

退屈と言うより、解説にもあるように、まるで夢の中の世界が繰り返されるが如しで、例によってクラウス・キンスキーの個性が光る一本でした。