くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「千年の愉楽」「メッセンジャー」

千年の愉楽

千年の愉楽
若松孝二の遺作を見る。さすがにこのレベルの映画を撮れるというのはさすがと呼ばざるを得ない。見事な一本でした。

物語は三重県尾鷲、路地と呼ばれる狭い、しかもそれほど裕福でもない集落が舞台になる。映画が始まると一人の女がこの地の産婆であるオリュウノオバのところへ駆けつける、オリュウの最初に取り上げることになる子供は代々その美貌故に女に求められ愉楽を与えるも若くして死んでゆく中本家の半蔵であった。父は浮気した女に刺されてこの日同じく浮島で息を引き取る。

映画はここから一気に年老いて床についたオリュウが過去を回想する様子と交互に描きながら展開する。夫は住職で遺影写真と語り合いながら中本家の切ないほどにもの悲しい男の運命を語っていくのである。

テーマ曲となる三味線を基調にした歌声を流しながらどこか浪曲の語り口のように映像が展開していく。狭い路地や階段をかけあがり走り抜ける男たち女たちの姿、なにかにつけてオリュウのところにやってくる中本家の男たちの姿が叙情的な演出で語られていく様が何とも素朴ながら中本家の男たちのはかなさをみごとに描写していきます。

半蔵もまた、自ら望むこともないのに女たちから求められいつの間にか中本家の男として生き、そして女に刺されて死んでしまう。次に描かれる三好もただ、輝きたいと望みながらも犯罪に走り、女に崩れ、ヒロポンの副作用で視力もなくし、最後は港で首をくくる。そして三人目に描かれる達男はオリュウと関係を持ってしまったために北海道へ流れその地で死んだとナレーションに語られる。

そして、年老いた伏せるオリュウもまた静かに息を引き取るのである。

時折モノクロームの映像を挟んだり、障子から漏れる朝日を強烈な光の演出で描いたり、後半になると港の景色、山肌に沈む夕日の景色などが目の覚めるようなカットで挿入される。まさに人生の最後を迎えていくこの映画の登場人物たちの死に際に浮かぶ景色のごとくである。

淡々と描いていくわけであるが、三人の若者とオリュウの心の交わりがどこか純粋な恋であるかにも見えてくる。そのプラトニックな危うさもまたこの映画の魅力ではないかと思えるのです。いい映画でした。久々に日本映画らしい日本映画を見た気がします。


メッセンジャー
正直言って、それほど話題にする映画かというレベルの作品でした。物語の主題がぶれていくのがどうしようもない。主人公ウィルの戦争後遺症、あるいはそこからの立ち直りの人間ドラマの話なのか、戦死した人の家族に戦死を知らせることによる反戦ドラマなのか、あるいはウィルとその相棒になるトニー大尉との男のドラマなのか、それぞれのエピソードのバランスが平均的なのでどこに観客の視点をとらえなければいけないのか見えてこないのです。

ウィルが恋人ケリーとSEXしているシーンから二人がどこかぎくしゃくし別れたしまうかのシーンから映画が始まる。どうやらウィルはイラク戦争の英雄であるが負傷し内地に戻って、その精神的な後遺症もあってその治療をしているらしい。そして残りの赴任期間を戦死した家族に戦死の報告をする任務に就くことを求められる。

様々な親族の反応に戸惑いながら立ち直る展開でもなく、一人の未亡人オリヴィアの家族に接してその未亡人になぜか心を引かれるウィルの姿も描く。一方で女好きのトニーとの男臭い展開もある。結局、いったんはオリヴィアとのシーンから離れるもラストで引っ越していくオリヴィアを訪ね、ウィルと二人で家の中に入るシーンで意味深にエンディング。

ではどうなの?この話はなにをどうとらえるものなのかわからないままに終わってしまった。つまらないというよりそこまでいかない作品でした。