くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アンチヴァイラル」「チャイルドコール呼声」「隣人ネクス

アンチヴァイラル

アンチヴァイラル
ディヴィッド・クローネンバーグ監督の長男ブランドン。クローネンバーグ監督の長編第一作として話題の一本。
なのだが、どこか、シュールな世界をはき違えている気がする。万全の体調で見始めたにも関わらず、陶酔感を通り越して、眠くて眠くてたまらなくなっていった。

物語は、ある意味非常にグロテスクなくらい不気味なお話である。美を求めるウィルスを売買する商売が成立している近未来、主人公シドはルーカスクリニックと呼ばれる会社でウィルスを販売する仕事をしているが、自らの体にウィルスを取り込んで、闇でウィルスを横流ししている。ウィルスにはコピーガードのようなものが施され、それがゆがんだ顔の画像のようなものというのがなんともグロテスク。さらにセレブの細胞で作ったセレブ肉なる闇の肉屋まで存在するあたりは、ディヴィッド・クローネンバーグの血筋であるが、何も似通う必要はないと思うのですが。

真正面にじっと、体温計をくわえて見つめるシドのアップから映画が始まる。やがて、人々の羨望のハンナという女性の持つウィルスを手に入れた彼は、それを自分の体に注射し持ち出しに成功するが、なぜか、何者かに追われ始める。しかも、それまで体験したことのない幻覚にも襲われるのだ。

そして、死んだはずのハンナは別の場所で生かされていて、実は彼女の体を細胞畑として利用しているライバル会社にはいるシドのシーンでエンディングを迎える。

というお話だったと思うのですが、いかんせん、ストーリーテリングがへたくそなのか、シュールな表現をはきちがえているのか、私の鑑賞眼が乏しいのか、話が見えてこない気がする。しかも、冒頭でシドが行っている違法行為の説明がほとんどなされないので、あらかじめ解説を読んでいてやっとわかるレベルの描写力しかない映像はちょっとつらい。

ハンナのウィルスを体に注入した後の幻覚シーンも体に器具が装着されるという映像描写の感覚にも迫力が今一つなのがちょっと残念。
確かに異質なサイエンスホラーであるし、映像表現も独特のものがある。冒頭のポスターをバックにした真っ白なショットなどは特筆できるが、物語のテンポが生み出されていないために、ストーリー演出に物足りなさが見えてしまう。結局、シュールというより、未熟という感じのできばえになっている気がするのですが、いかがでしょうか。


「チャイルドコール 呼声」
北欧のポール・シュレットアウネ監督作品である。
ちょっと作り込みすぎる気がしないでもないが、わりと楽しめるサスペンスホラーでした。

現実と空想、過去と現代の時間の交錯、意味深なシーンをこれでもかというほどに次々と挿入し、畳みかけるというより、中途半端に繰り返しながら、ラストで一気にその真相をあかしてしまう手法は、良くある方法ながら、楽しませてくれますが、伏線という形のテクニックではないだけに、これ見よがしに見えなくもないのはちょっと残念でしょうか。

一人の女性アナが車から降りてくるところから映画が始まる。車が走り去ると向こうに一人息子アンデッシュがたっている。
どうやら父親の虐待から逃げてきた様子で、やたらと子煩悩な母親は息子が寝ているときにその様子が気にかかるのでチャイルドコールを買う。その販売店でヘルゲという男性と知り合う。

そのチャイルドコールに混線したのか別の子供が虐待されているような声が入り、サスペンス色が高まる。一方でこのアナという女性がなにやら幻覚のようなものをみたり、湖の景色を見たりするシーンが繰り返され、実はその湖も別の日に行くと駐車場であったりと彼女にもどこか不穏なムードが漂う。

アンデッシュにも学校で友達ができるが、アナと話もしないし、これもまた意味ありげなシーンへとつながっていく。

結局、アンデッシュは二年前に父親に殺され、父親は自殺、ところが、父も息子もいるものとして生活する穴の姿が映画の物語で描かれていく。そしてとうとう、そんな幻覚の末に、息子を取られると錯覚したアナは息子を抱いて(のつもりで)窓から飛び降り自殺する。しかし、真相を知ったヘルゲは、アナがチャイルドコールに聞こえていた声を録音した内容とアナが残した絵から、別に殺された男の子を森で発見するというところまで話がひろがるのだから、これはもうやりすぎでしょう。

もうちょっとシンプルにした方がサスペンスが盛り上がった気がするのですが、あれこれと盛り込みすぎて、複雑にし過ぎたのかもしれません。でもこれはこれで独特の語り口がおもしろい一本でした。


「隣人 ネクストドア」
さて、ポール・シュレットアウネ監督の2005年作品ですが、これは70分あまりの中篇に近い作品ながら、幻覚と現実が入り混じったちょっとした面白いホラーミステリーでした。

一人の女性イングリットが車から降りて、元彼のヨーンのアパートへ荷物をとりに行くところから映画が始まります。外では今の彼氏のアーケが待っている。ヨーンとイングリットは言い合いをしながら暗転、じかんがっ立ったように見える。

この作品も「チャイルドコール呼声」と非常によく似た構成で、主人公が見る幻覚とも現実ともいえない物語に、その周辺の人物が絡んでくるというミステリアスな展開が続く。

ある日ヨーンがエレベーターから降りると、隣人だといってセクシーな案ねという女性が家具を動かして欲しいとヨーンを自室に誘う。ところがいってみると、妹だというキムというこれまたセクシーな女がいる。彼女らが着ている服がどこかほころびていたり意味ありげなショットをはさみながら、どんどんミステリアスに展開。

後日、アンネが出かけるから少しキムを見ておいて欲しいといわれ、ヨーンが部屋に入るとキムは鍵をかけて、さらにおくの迷路のような部屋に行く。部屋は乱雑に散らかり、ごみ屋敷のようである。彼女を追いかけていったヨーンの前に、挑発的に話しかけるキムが座っている。そして、いつの間にかその挑発に乗るヨーンにキムは殴る。そして、殴りあいながらSEXをし、血だらけになるふたり。その様子を影で見るアンネがいる。

電話局でアンネの電話を調べても、ヨーンのすむ階にはヨーン以外いないと言う返事。

後日、再びヨーンがアンネの部屋をおとづれると、アンネが、先日のキムのように別の男に迫っている。しかもその男はイングリットの彼氏アーケだという。そして、イングリットに虐待をしたヨーンを責めるアーケ。扉を開けると、アンネの部屋だったはずが、自分お部屋に。そして、現実と幻覚が入り乱れていく。寝室に入るとはとがいっぱい降りていて、ベッドの上にイングリットの無残な裸体が。

廊下に出ると、あるはずの隣室がなく、壁になっている。

完全に錯乱状態になって閉じこもってしまうヨーン。会社の同僚が訪ねると、廊下の壁に穴を開けた跡、ヨーンを呼び出すと、なにやらひどい物音。カメラがゆっくりと室内に入る。浴室には無残に殴り殺されたアーケ、ベッドには絞め殺されたイングリッド。その横にゆっくりと横たわるヨーンのショットでエンディングである。

冒頭で、イングリットが訪ねてきた直後にヨーンとイングリットは諍いになり、イングリットを絞め殺してしまったのである。さらに助けを呼ばれやってきたアーケもヨーンに殺されていたのだ。

時間を前後させながら、主人公の幻覚の中に描く現実の湯女ストーリーテリングの面白さが独特で、「チャイルドコール呼声」ほど欲張った内容にせずに、シンプルなミステリーにして完成されている。ちょっとした個性派の監督で次の作品も楽しみになる一本でした。